借地権は賃借人に移転したと認めるのが相当とした事例

土地の地代10か月分を無利息で60年間敷金として預けた場合の貸宅地の評価は、 借地権は賃借人に移転したと認めるのが相当なので、相当地代通達の適用は相当でないとした事例 平成9年5月30日裁沢 金沢
請求人の主張
請求人は、財産評価基準書の借地権割合50%を適用し、自用地としての相続税評価額に借地権割合50%を乗じた価額を本件貸宅地の評価額であるとして、相続税の申告をした。
原処分庁の主張
賃貸借契約の締結に際し、権利金等の授受があった事実は認められず、また本件貸地の相続開始前3年間の本件地代率の平均は年6.82%なので、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」 通達「相当地代通達」における相当の地代率と認められることから、本件貸宅地の評価に当たっては当該通達を適用すべきである。
審判所の判断
本件賃貸借契約の締結に際し、当該契約の当事者間において権利金の授受の話合いが 全く行われず、本件賃貸借契約書上には権利金についての定めがないことが認められるが、 一方、当該契約書上、本件敷金は、賃貸借料の10か月相当額金 1,800,000 円と定められて いることが認められる。
本件敷金の額が本件貸宅地の存する地域において通常収受される程度の敷金の額を超えているかどうかについては、当審判所の調査によっても当該通常収受される程度の敷金の額が明らかでないことから、地代3か月分相当額を超えているかどうかによって判断するのが相当と認められ、これによって判断すると、本件敷金の額は、本件貸宅地の存する地域において通常収受される程度の敷金の額を超えていることは明らかである。
そうすると、本件賃貸借契約に係る賃貸人である被相続人は、本件賃貸借契約の締結、すなわち借地権の設定に伴い、本件敷金の額 1,800,000円を無利息で60年間保管し本件賃貸借契約の終了と同時に本件賃借人に支払うことを約することにより、通常の場合の金銭の貸付けの条件に比し、特に有利な条件による金銭の貸付けその他特別の経済的利益を受けたものと認められることから、借地権設定の対価として当該特別の経済的利益相当額、すなわち権利金等の授受があったとして、 借地権は本件賃借人に移転したと認めるのが相当である。
以上のとおり、 借地権の設定された本件貸宅地について権利金等の授受に代え相当の地代が授受されていると認めることができないこと及び本件貸宅地について土地の無償返還届出書が所轄税務署長に提出されていないことから、本件貸宅地の評価に当たり相当地代通達を適用することは相当でない。
相当地代通達の適用地域かどうかの認定は、相当地代通達の制定の趣旨からすると、本件貸宅地の所在地が借地権の設定に際し通常権利金等を授受する取引上の慣行のある地域かどうかによってするのが相当と解される。
また、請求人は、仮に相当地代通達を適用する場合の予備的主張をしているが、相当地代通達の適用の適否については上記のとおりであるから、当審判所として、この点につき判断すべきとは認められない。
以上の結果、本件貸宅地の評価に当たっては、評価基本通達に基づき、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金等を授受するなど借地権の取引慣行のある地域として取り扱うのが相当と認められ、相当地代通達を適用した本件更正処分は違法であるから、その全部を取り消すことが相当である。
関係法令等
※ 相当地代通達
借地権の設定された土地について権利金等の授受に代え相当の地代を授受するなどの特殊な場合の相続税の取扱いを定めたものである。
したがって、借地権の設定に際し通常権利金等を授受する取引上の慣行のある地域において、通常の地代 (その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代をいう。)が授受されている貸宅地の相続又は遺贈があった場合には、相当地代通達の取扱いによることなく、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達)及び評価基本通達等の従来の取扱いによる。
相当地代通達は、まず、①本件貸宅地の所在地が借地権の設定に際し通常権利金等を授受する取引上の慣行のある地域であり、かつ、②借地権の設定された本件貸宅地について権利金等の授受に代え相当の地代が授受されていること、又は、借地権が設定されている土地について土地の無償返還届出書が所轄税務署長に提出されていることが明らかである場合にのみ適用されると解するのが相当である
コメント
本件の場合、
①本件貸宅地は権利金等の授受に代え相当の地代が授受されているとは
認めることができないこと、
②土地の無償返還届出書の提出がないこと、
③借地権の設定に際し権利金等を授受する慣行の地域であることから、
審判所は、相当地代通達の適用は違法だという考えに至ったことです。










