本件土地は開発道路不要なので広大地に該当しないとした事例
広大地は、昨年(H29年)12月31日をもって終わりましたが、広大地による相続税還付はこれからも活用できます。
本件土地は、相続開始日後に道路の設置を伴う開発が行われているが、経済的に最も合理的とは認められず、道路等の負担が必要ではないから、広大地に該当しないとした事例(金沢・公開 平成27年11月25日裁決)
1.本件土地の概要
本件土地の地積は、2,282.63㎡の土地である。本件土地は、本件相続開始日において道路より平均0.7m低いほぼ四角形の不整形な土地で、自用の田として利用している(市街化周辺農地に該当する)。
本件土地の属する用途地域は、第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。
2.争点
本件土地は、広大地通達に定める広大地に該当するか否か。
具体的には、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるか。
3.原処分庁の主張
本件土地は、次の理由により、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められないことから、広大地に該当しない。
(1)原処分庁主張地域は、多くの戸建住宅用地として利用され、また、戸建住宅用地としての開発が進行している。
(2)そして、原処分庁主張地域において開発された戸建住宅用地の全区画数は66区画であるところ、①これらの区画の1区画当たりの平均地積は256.69平方メートルであること、②200平方メートル以上300平方メートル未満の地積の区画は43区画で全区画数の65.2%を占めていることから、原処分庁主張地域の標準的な宅地の地積は、200平方メートル以上300平方メートル未満であると認められる。
(3)広大地通達の趣旨を鑑み、原処分庁主張地域を設定し、原処分庁主張地域の標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などをしんしゃくして作成した開発想定図(別図2)のように分割を行えば、道路等の公共公益的施設用地の負担を必要としなくとも標準的な地積の宅地に分割することが可能であり、そのような土地についてまで、広大地通達を適用することを想定しているとは認められない。
4.請求人らの主張
本件土地は、次の理由により、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められることから、広大地に該当する。
(1) 本件の場合、広大地通達でいう「その地域の標準的な宅地の地積」は、近年の販売面積の主流からすれば、本件土地の分譲完了直前図(別図1)のように60坪(約198平方メートル)ないし70坪(約231平方メートル)程度であると認められる。
(2) そして、本件土地は、上記(1)を踏まえ判断すると、請求人らの開発想定図(別図3)又は分譲完了直前図(別図1)のように公共公益的施設用地である道路を設けることによって、宅地としての財産価値が高まり、民間業者では当たり前の経済的に最も合理的な分譲ができるものとなっている。
(3)高所得者を狙うのであれば画地の価値を高めるような工夫が必要であるところ、原処分庁の開発想定図(別図2)により分譲した場合、売れ残る画地が発生し、物理的合理性を追求するあまり経済的合理性を失い収益を悪化させる可能性が高く、広大地通達にある経済的に最も合理的な分譲とはいえない。
5.審判所の判断
(1)法令解釈等
イ 広大地通達について
(イ)広大地通達における「その地域」について
広大地通達でいう「その地域」とは、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
(ロ)広大地通達における「標準的な宅地の地積」について
広大地通達における「標準的な宅地の地積」は、評価対象地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地の地積、評価対象地の付近の標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して判断するのが相当である。
(2)当てはめ
イ 広大地通達に定める「その地域における標準的な宅地の地積」について
平成13年以降に本件地域において戸建住宅用地として開発された全61区画の平均の地積は約259平方メートルであること及びその1区画当たりの地積が220平方メートル以上300平方メートル未満であるものが全区画の60.7%を占めていることからすると、本件地域における標準的な宅地の地積は、220平方メートル以上300平方メートル未満であると認めるのが相当である。
そうすると、本件土地は、上記の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な土地であると認められる。
ロ 広大地通達に定める「公共公益的施設用地」の負担について
(イ)本件地域の状況は、上記イのとおりであり、また、本件土地は、本件地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大な土地であると認められるから、本件土地は、戸建住宅用地として開発するのが相当であると認められるところ、本件土地の戸建住宅用地としての開発は、本件地域の標準的な宅地の地積である220平方メートル以上300平方メートル未満を基準に行うことが合理的であると認められる。
(ロ)そして、原処分庁の開発想定図(別図2)は、本件地域における標準的な宅地の地積である約220平方メートルないし約280平方メートルに、本件土地がその四方を幅員約6mないし約8mの公道に面している接道状況を踏まえたものであるところ、同図の各区画には、間口距離、奥行距離及びその形状も特段不合理とする点は認められない。
そうすると、原処分庁の開発想定図(別図2)は、経済的に合理的な開発想定図と認められ、本件土地は、戸建住宅用地として開発した場合、道路等の公共公益的施設用地の負担を要することなく開発することが可能な土地であると認められる。
(ハ)また、本件地域における戸建住宅用地としての開発形態については、開発事例1ないし同4のいずれも道路の設置を伴う開発であるところ、道路との接続状況が明らかに異なるため、開発事例はいずれも本件土地の開発と類似する開発事例、すなわち、本件土地の評価に当たり比較すべき開発事例とは認められない。
(ニ)以上から、本件土地は、その形状、道路との接続状況及び本件地域における経済的に最も合理的と認められる戸建住宅用地としての開発などの形態からみて、開発行為を行うとした場合に道路等の公共公益的施設用地の負担が生じないと認めるのが相当である。
ニ まとめ
以上のとおり、本件土地は、本件地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大であると認められるものの、戸建住宅の敷地として都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に道路等の公共公益的施設用地の負担が必要であるとは認められないから、広大地通達に定める広大地に該当しない。
(4) 請求人らの主張について
イ 本件土地は、開発行為を行うとした場合に道路を設置する必要は認められないことは上記で述べたとおりであり、仮に、道路を設置することによって戸建住宅用地としての価値が上がったとしても、そのことが直ちに公共公益的施設用地の負担が必要か否かの判断に影響を与えるものではない。
なお、上記のとおり、本件土地は、本件相続開始日から約1年5か月を経過した平成25年■月頃に実際に道路が設置された開発が行われているが、当審判所の調査によっても、当該開発時点における本件土地の開発に影響を及ぼす諸状況等が、本件相続開始日時点と同じであるとまでは認められず、また、公共公益的施設用地の負担が必要か否かは、土地の形状、道路との接続状況及び土地の所在する地域における経済的に最も合理的と認められる戸建住宅用地としての開発の形態等を総合的に勘案し、判定するものであるから、本件土地の本件相続開始日後の開発形態のみにより、本件土地について本件相続開始日において開発行為を行うとした場合に道路の設置を伴う開発が経済的に最も合理的と認められる開発であるか否かを判断することは相当でない。
したがって、請求人らの主張には理由がない。
コメント
本件においては、請求人らが開発道路のある開発想定図を提出する一方、原処分庁は新たな開発道路のない開発想定図をつくっています。
まず、本件土地は四方が道路に面していることです。
すると原処分庁が主張する開発想定図が頭に浮かびますね。
土地をブツ切りして区画割りできるけれども、開発道路が可能かどうか、さらに理屈が通るかどうかと考えていきますと、その地域の標準的画地の標準的地積に分割していけばどうなるか、その地域の標準的画地の標準的地積の決め方はどうか、と考えてしまいますね。
原処分庁案は9区画(道路負担なし)、請求人ら案は6区画(開発道路あり)、本件土地の分譲完了図10区画(開発道路あり)
四方が道路に面している土地が広大地になるか否かの判断には、説得力のある資料と、その地域及びその周辺地域の状況を勘案して決める必要があるようです。
又、本件土地の分譲完了図をみて思う事は、この開発図面では1区画(202.20㎡)のためにだけ開発道路を設けていますが、「当該開発道路の利用者は1区画(202.20㎡)の宅地の利用者に限られていること」と指摘され、「1区画だけの為に潰れ地を生じさせてまで開発道路を設置する経済合理性は認められない」と言われそうです。
本件においてはこのような論理展開はされていませんが、1区画のための開発道路ならば、路地状敷地のほうが経済合理性があると考えた方が妥当と私は思いますので、そう言われないような工夫が必要かと思います。
関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/)