土地賃料増額請求の当否と相当賃料額の判断
1.判例要旨
建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約におい て、3年ごとに賃料の改定を行うものとし、 改定後の賃料は、従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗し、 公租公課の増減額を加算又は控除した額とするが、消費者物価指数が下降してもそれに応じて賃料の減額をすることはない旨の特約が存する場合であっても、上記契約の当事者は、そのことにより借地借家法11条1項に基づく賃料減額請求権の行使を妨げられるものではない。
2.理由(一部枠粋)
イ)本件は、上告人らが、被上告人に対し、本件各土地の賃料は上告人らによる上記賃料減額請求権 の行使により減額されたと主張して、減額後の賃料の確認を請求する訴訟である。
ロ)原審は、次のとおり判断して、上告人らの請求をいずれも棄却した。
(1) 本件特約のような賃料の改定に関する特約 (以下「賃料改定特約」という。) は、賃料改定の際に改定の可否及び改定額をめぐって当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、当事者の合意 により、あらかじめ賃料改定の時期及び改定額の決定の基準を定め、これに基づいて賃料の改定を行おうとするものである。
賃料改定特約は、改定額の決定の基準が客観的な数値であって、賃料に比較的影 響を与えやすい要素によるものであるときは、契約自由の原則にのっとり、その効力を肯定すべきである。本件特約は、消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に比較的影響を与えやすい要素を改定額の決定の基準とするものであるから、その効力を否定することは相当でない。 したがって、本件特約に基づかない上告人らの賃料減額の意思表示の効力を認めることはできない。
ハ)しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 前記確定事実によれば、本件各賃貸借契約は、建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約であるから、本件各賃貸借契約には、 借地借家法11条1項の規定が適用されるべきものである。
本件各賃貸借契約には、3年ごとに賃料を消費者物価指数の変動等に従って改定するが、消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない旨の本件特約が存する。 しかし、借地借家法11条1項の規定は、強行法規であって、本件特約によってその適用を排除することができないものである。
したがって、本件各賃貸借 契約の当事者は、本件特約が存することにより上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使を妨げられるものではないと解すべきである。
(2) したがって、上告人らは、借地借家法11条 1項の規定により、本件各土地の賃料の減額を求めることができる。 そして、この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、 賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件特約の存在 はもとより、本件各賃貸借契約において賃料額が決定されるに至った経緯や本件特約が付されるに至った事情等をも十分に考慮すべきである。
まとめ
以上によれば、本件特約の存在を理由として上告人らによる賃料減額請求権の行使を否定し、事情変更の原則が適用される場合に限って賃料の減額が認められるとした上で、本件はそのような場合に当たらないとして上告人らの請求を棄却した原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人らの賃料減額請求の当否等につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
コメント
地代の改訂について特約を付ける場合は、多々あると思いますが、「借地借家法11条1項の規定は、強行法規であって、本件特約によってその適用を排除することができないものである」と最高裁は指摘しています。
借地借家法11条1項は、
②土地の価格の上昇もしくは、低下その他の経済事情の変動
③近傍類似の土地の地代等に比較して不相当になった時
をあげています。
上記の内容を踏まえ、現在の地代が不相当になっていれば、値下げをしないという特約があっても、地代の値下げはできますよということです。そのような折は、不動産鑑定士にご相談ください。