未登記袋地所有者の袋地通行権が認められた事例

2019年7月11日

未登記袋地所有者の袋地通行権が認められた事例(最高裁 昭和47年4月14日判決)

「Q&A重要裁判例による私道と通行権の法律トラブル解決法」(プログレス刊)によれば、袋地通行権の主張を認めた事例がありましたので掲載します。

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本来『買主が土地の所有権を売買などで取得しても、登記を経由しないと売主以外の第三者にはその所有権を主張できないのが原則です(民法177条)』が、貸地通行権を認めた最高裁判例がありました。

『ところが、最高裁昭和47年4月14日判決(民集26巻3号483頁)は、以下のとおり袋地通行権の主張を認めています。

最高裁の事案は、Xが甲1地と甲2地を買い受けて、

甲1地については所有権移転登記を経由したが

甲2地については公図にも地番のない、いわゆる無番地のため所有権の登記をしていないところ

甲1地、甲2地は袋地で、Yが所有する乙地のうちの本件通路(図-11の車線部分)を通行していました。

ところが、乙地を耕作していたYが、リンゴ樹への伝染病防止のため本件通路に溝(アミ部分)を掘ったため、Xが通行を妨害されたとして、通行妨害禁止などを求めて提訴しました

原審の仙台高裁秋田支部は袋地通行権を認めて、通行妨害禁止を認容したため、Yが上告しました。

最高裁は、以下の通り述べて上告を棄却しました。

思うに、袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないしこれにつき利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができると解するのが相当である。

なんとなれば、民法209条ないし238条は、いずれも、相隣接する不動産相互間の利用の調整を目的とする規定であって、同法210条において袋地の所有者が囲繞地を通行することができるとされているのも、相隣関係にある所有権共存の一態様として、囲繞地の所有者に一定の範囲の通行受忍義務を課し、袋地の効用を完からしめようとしているためである

このような趣旨に照らすと、袋地の所有者が囲繞地の所有者らに対して囲繞地通行権を主張する場合は、不動産取引の安全保護を図るための公示制度とは関係がないと解するのが相当であり、したがって、実体上袋地の所有権を取得した者は、対抗要件を具備することなく、囲繞地所有者らに対し、囲繞地通行権を主張しうるものというべきである