戸建分譲住宅は存在しないので、広大地に該当しない事例

2019年6月12日

本件地域には倉庫兼住宅や事務所兼住宅は存在するが、戸建分譲住宅は存在しないので、本件土地は広大地には当たらないとした事例
(東裁(諸)平21第78号 平成21年12月14日裁決)

1.本件各土地の概要

(1)本件A土地

広大地に該当しないとした事例本件A土地の地積は、992.88㎡の土地で、本件相続開始日当時○○に賃貸され、トラックの駐車場として使用されていた。○○から1,000㎡に位置する。本件土地の属する用途地域は、工業地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。

 

2.争点

本件A土地は広大地に当たるか。

3.原処分庁の主張

① 本件A土地を含む○○○○及び○○の地域(工業地域に所在し、建ぺい率60%、容積率200%の地域)内には、大規模の工場やマンションが数多く立ち並んでいる状況にあるから、当該地域内において標準的な宅地の使用方法は、マンションの敷地等と認められ、標準的な地積は、約800~4,900㎡である。本件A土地の地積は、984.87㎡であるから、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」とは認められない。

② また、本件A土地周辺地域は、マンション敷地としての利用に移行しつつある状態で、その以降の程度が相当進んでいる地域と認められるから、仮に、本件A土地が、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に当たるとしても、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に当たるから、広大地評価の適用はない。

4.請求人の主張

① 本件A土地の属する地域は、本件相続開始日現在は、中小工場地域から住宅地域への移行地域であり、本件A土地における「その地域」とは、建築基準法上の建ぺい率60%、同法上の容積率200%の工業地域のほか、隣接する建ぺい率60%、容積率200%の準工業地域及び建ぺい率80%、容積率300%の近隣商業地域を含む地域とすべきである。

② そうすると、本件A土地の属する「その地域」は、用途及び規模が多種多様な混在地で、その地域の標準的使用を特定することはできないものの、この地域が上記のとおり住宅地域への移行地域であることを考慮すると、本件A土地の属する地域の標準的な宅地の使用方法は、100㎡の戸建住宅の敷地又は2,000㎡程度のマンションの敷地である。本件A土地は、地積が1,000㎡にも満たないため、マンションの敷地には適さず、道路条件等から、1区画65㎡から100㎡程度の戸建分譲住宅の敷地としての使用が最も有効であり、その開発に当たって、公共公益的施設用地の負担を要することは明らかである。

よって、本件A土地は、広大地に当たる。

5.審判所の判断

イ.当てはめ

(イ)「その地域」について

「その地域」とは、本件A土地が所在する○○○から○○までの地域(以下「本件地域」という。)と認めるのが相当である。

(ロ)「標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大」かについて

① 当審判所の調査の結果によれば、本件地域における本件相続開始日現在の土地の利用状況(本件A土地を除く。)は、別表2のとおりであると認められる。

そして、本件地域の宅地は、駐車場(別表2番号4)、マンション(同16)及び空閑地(同23)が各1か所あるほかは、工場、倉庫又は事務所の敷地として使用されているから、本件地域における宅地の標準的な使用方法は、工場、倉庫又は事務所の敷地であると認められる(本件A土地を譲受けた○○○は、事務所等の敷地として使用している。)。

② そして、別表2のとおり、本件地域において工場、倉庫又は事務所の敷地として使用されている宅地の地積には相当の幅があるが、300㎡台又は400㎡台の宅地が約半数を占めるから、本件地域における「標準的な宅地の地積」は、300~500㎡程度と認めるのが相当である。

③ そうすると、本件A土地の地積は992.88㎡であり、上記の標準的な地積の2~3倍であるから、本件A土地は、本件地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大であるというべきである。

(ハ)「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に当たるかについて

本件地域における宅地の標準的な使用方法は、地積300~500㎡程度の工場、倉庫又は事務所の敷地としての使用であるから、経済的に最も合理的な使用方法もこれと同様であるというべきである。

したがって、本件A土地について、経済的に最も合理的な開発行為とは、工場、倉庫又は事務所の敷地として、2分割又は3分割することであると認められる。

そうすると、本件A土地は、西側道路に30mの幅で接面しているから、2分割又は3分割しても10~15mの幅で接道させることが可能である、開発道路等の公共公益的施設用地の負担は生じない。

ロ 結論

以上によれば、本件A土地は、広大地に当たらない。

ハ 原処分庁の主張について

本件における「その地域」とは、本件地域をいうと解すべきところ、本件地域には、マンションは1棟存在するのみであるから、標準的な宅地の使用方法及び地積が、約800~4,900㎡のマンション敷地であるとの原処分庁の主張は採用することができない。

ニ 請求人らの主張について

他方、請求人らは、「その地域」には、本件A土地の所在する工業地域のほか、隣接する準工業地域及び近隣商業地域も含まれ、これらの地域は住宅地以降地であるから、本件A土地の最有効使用は、65から100㎡程度の戸建分譲地としての使用であると主張する。

しかし、請求人らが主張する近隣商業地域は、本件A土地と建ぺい率及び容積率が異なる上、評価基本通達14-2の地区区分も異なるから、「その地域」を、請求人らが主張するように広く解することは相当でない。

そして、本件地域には、倉庫兼住宅や事務所兼住宅は存在するものの、戸建分譲住宅は存在しないから、請求人らの主張も採用できない。

以  上

10月5日記事文中の表

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コメント

評価基本通達24-4によれば、広大地の要件として,「その地域における標準的な宅地に比して地積が著しく広大な宅地」であることを掲げています。「標準的な地積」がいくらで、「著しく広大な宅地」か否かについての明確な指針がありませんが、本件においては、審判所が、「本件地域における本件相続開始日現在の土地の利用状況は、別表2のとおりであると認められる」とした上で,「本件地域における宅地の標準的な使用方法は,地積300㎡~500㎡程度の工場,倉庫または事務所の敷地」とし、本件土地は「2分割または3分割しても10m~15mの幅で接道させることが可能」なので広大地には該当しないとの判断を示しました。

ここまで踏み込んで本件地域の土地の利用状況および地積を分析しますと、とても説得力ある内容だと思います。

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/