本件土地は、路地状開発が合理的なので、広大地に該当しないとした事例
広大地は、昨年(H29年)12月31日をもって終わりましたが、広大地による相続税還付はこれからも活用できます。
本件土地は、路地状開発を行うことが合理的であると判断されるので、広大地に該当しないとした事例(東裁(諸)平27第27号 平成27年9月2日裁決)
本件土地の概要
本件土地は、■■の南方約800mに位置し、幅員約8mの道路に接面する地積394.16㎡の不整形な宅地である。
本件土地の属する用途地域は、第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。
争点
本件土地は、本件通達に定める広大地に該当するか否か。
原処分庁の主張
本件土地は、以下の理由から、本件通達に定める広大地に該当しない。
(1)「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かについて
本件土地は、次のとおり、本件通達に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」には該当しない。
イ 本件土地の場合、面積基準は■■であり、本件土地の地積(394.16㎡)は、この面積基準を満たしていない。
また、本件土地の存する用途地域のうち、■■■及び■■の地域(以下「本件地域」という。)においては、本件相続開始日前の約10年間に、平成18年の分譲事例を除き、ミニ開発分譲が行われた事実及び平成元年以降、本件平成18年道路開設事例のほかに位置指定道路を開設して行う宅地分譲が行われた事実のいずれも見当たらないことから、本件地域は、ミニ開発分譲が多く行われている地域には当たらない。
(2)「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当するか否かについて
本件土地を本件地域の標準的な宅地の地積に分割する場合における位置指定道路の開設の必要性について個別に検討すると、別図1のとおり、本件土地は、路地状部分を有する画地(以下「路地状敷地」という。)を組み合わせた戸建住宅の分譲用地として開発すること(以下「路地状開発」という。)によって、本件地域における標準的な宅地の使用方法である戸建住宅の敷地として、その標準的な宅地の地積(おおむね60㎡ないし90㎡程度)により5区画に分割することができ、道路等の設置を要するとは認められないことから、本件土地は、本件通達に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当しない。
(3)「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に該当するか否かについて
上記のとおり、本件土地は、本件通達に定める広大地の要件に該当しないことから、中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものか否かを検討するまでもない。
請求人らの主張
本件土地は、以下の理由から、本件通達に定める広大地に該当する。
(1)「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かについて
本件土地は、次のとおり、本件通達に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当する。
イ 本件土地に係る「その地域」は、本件地域であり、本件地域における標準的な宅地の使用方法は、戸建住宅の敷地で、その標準的な宅地の地積は、おおむね60㎡ないし90㎡程度であることから、地積が394.16㎡である本件土地は、本件通達に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当する。
ロ 原処分庁の主張する面積基準は、判断基準の一つにすぎず、絶対的な基準ではない上、本件土地が面積基準を満たさないとしても、次のことから、本件地域は、ミニ開発分譲が多い地域であるといえる。
(イ)本件相続開始日当時において、ミニ開発分譲の素地となる地積の土地取引及び開発自体は少ないが、本件相続開始日前10年間及び本件相続開始日の後に、2件のミニ開発分譲の事例(本件平成18年道路開設事例及び平成25年の分譲事例(■■■ほか所在の地積325.09㎡の土地を路地状開発により3区画の戸建住宅の分譲用地に開発した事例をいう。))が見受けられる。
(2)「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当するか否かについて
本件土地は、別図2のとおり、位置指定道路を開設することが合理的であると考えられることから、本件土地は、本件通達に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当する。
(3)「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に該当するか否かについて
本件土地の近隣地域においては、中高層の集合住宅等が建設された事例が38件あるが、それらのうち本件相続が開始した年(平成23年)から過去10年間では5件、同過去5年間では1件のみであり、中高層の集合住宅の敷地としての利用に地域が移行しつつある状態とはいえないことから、本件土地は、本件通達に定める「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」には該当しない。
審判所の判断
(1)判断枠組みについて
イ 法令解釈等
(イ)本件通達について
A 本件通達は、①その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であること(要件1)、②開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであること(要件2)、③中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの等ではないこと(要件3)のいずれの要件も満たす土地を広大地とし、この広大地について、地積に応じた減額の補正を行う旨を定めている。
B この点に関し、原処分庁は、広大地に該当するか否かの判定に当たっては、基本的には面積基準を指標とすることが適当である旨主張する(上記3の「原処分庁」欄の(1)。
しかしながら、本件通達における減額補正の趣旨は上記Aのとおりであり、本件通達に定める広大地の3要件(上記Aの要件1ないし3)を満たすものであれば、広大地に該当するものと判断すべきであって、広大地の3要件以外に、都市計画法に規定する「開発許可」を受けることが義務付けられた土地である必要はなく、特に面積基準を課したものではないことから、原処分庁の主張は採用できない。
ロ 小括
以上によれば、広大地に該当するか否かは、本件通達の定める3要件(上記イの(イ)のAの要件1ないし3)に沿って検討すべきものといえるから、これを踏まえて検討を進める。
(2)広大地の要件1(その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であること)について
ハ 当てはめ
(イ)本件土地に係る「その地域」について
本件土地に係るその地域は、「本件土地が存する用途地域が第一種住居地域、建ぺい率が60%、容積率が200%に指定された地域のうち、■■■■及び■■■の地域」、すなわち本件地域であると認めるのが相当である。
(ロ)本件土地に係る「その地域における標準的な宅地の地積」について
本件地域内における各開発事例に係る全52区画の65.4%に当たる34区画の地積が60㎡ないし90㎡の範囲内にあることをも踏まえると、本件土地に係る「その地域における標準的な宅地の地積」は、おおむね60㎡ないし90㎡程度であると認めるのが相当である(なお、請求人らと原処分庁との間で、本件土地に係る「その地域における標準的な宅地の地積」について、争いはない。)。
(ハ)小括
本件土地の地積は394.16㎡であるのに対し、上記のとおり、本件土地に係る「その地域における標準的な宅地の地積」は、おおむね60㎡ないし90㎡程度であることから、本件土地は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であるといえ、広大地の要件1を満たしている。
(3)広大地の要件2(開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであること)について
イ 本件通達の解釈
本件通達における「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、標準的使用が戸建住宅の敷地である場合は、「その地域」における「標準的な宅地の地積」に基づき、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路等の開設が必要なものであると解するのが相当である。
ところで、当該宅地について路地状開発を行うことが合理的と認められる場合には、その区画割りによっても、道路等を開設する必要がないこととなるから、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路等の開設が必要な宅地であるとはいえず、本件通達における「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」には該当しないものと解すべきである。
そして、路地状開発を行うことが合理的と認められる場合であるかどうかは、①路地状敷地を設けることによって、評価対象地の存する地域における「標準的な宅地の地積」に分割できること、②路地状開発が都市計画法、建築基準法、都道府県等の条例等の定めに反しないこと、③建ぺい率及び容積率の計算上有利であること、④評価対象地の存する地域において路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行われていることなどを総合的に勘案するのが相当である。
ハ 当てはめ
(イ)本件地域における路地状開発について
上記のとおり、本件各開発事例の中には路地状開発によるものがあることが認められるところ、上記イのとおり、本件土地について路地状開発を行うことが合理的と認められる場合には、本件通達における「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」には該当しないこと、すなわち、広大地の要件2を満たさないこととなるから、本件土地について路地状開発を行うことが合理的と認められるか否かについて、以下、上記イの①ないし④に沿って検討する。
A 路地状敷地を設けることによって「標準的な宅地の地積」に分割できるか否か(上記イの①)について
本件土地は、原処分庁の主張する本件土地の開発想定図(別図1)のとおり、2区画の路地状敷地を設けることにより、5区画のおおむね60㎡ないし90㎡程度の標準的な宅地の地積の区画に分割できるといえる。
B 路地状開発が都市計画法、建築基準法、都道府県等の条例等の定めに反しないか否か(上記イの②)について
(A)上記のとおり、都市計画区域内において開発行為を行う場合には開発許可が必要とされており(都市計画法第29条)、本件土地が存する■■■における開発許可を要する規模(地積)の下限は、■■■であるところ、本件土地は、地積が394.16㎡であるから、開発行為を行うとしても、開発許可を要しない宅地である。
(B)また、建築基準法では、建築物の敷地は接道義務を満たさなければならないとされており、本件土地について路地状開発をする場合には路地状部分の幅員として■■を確保すればよいこととなる。
(C)建ぺい率及び容積率の計算上有利であるか否か(上記イの③)について
本件土地は、用途地域が第一種住居地域、建ぺい率が60%、容積率が200%に指定された地域に存しており、建ぺい率及び容積率はそれぞれ60%及び200%に制限されている。
本件土地について、別図1のとおり路地状開発を行った場合には、建ぺい率及び容積率の算定に当たり、路地状部分の地積も敷地面積に含まれることになるから、請求人らが主張する本件土地の開発想定図(別図2)のとおりに道路を開設する場合に比べて、より広い建築面積及び延床面積の建築物等を建築することが可能である。
したがって、別図1のとおり路地状開発を行うことは、建ぺい率及び容積率の計算上有利であるといえる。
(D) その地域において路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行われているか否か(上記イの④)について
上記によれば、本件各開発事例は、開発規模に大小の差があるものの、都市計画法の施行前のもの、面積基準を満たしていないもの又は開発行為に当たらないものであることにより、いずれも開発許可を要しなかった事例であり、この点において共通している。
そして、本件各開発事例のうち、本件相続開始日前10年間の5事例でみると、道路を開設することなく路地状開発により行われたものが4事例ある(このうち2事例は、本件土地のように一方のみが道路に接する土地(一路線に接する土地)に係るものである。)のに対し、道路を開設したものが1事例であり、本件各開発事例全体でみても、その半数が道路を開設することなく路地状開発により行われたことが認められる。
したがって、本件地域での戸建住宅の分譲用地の開発において、路地状開発は一般的に行われているといえる。
E 上記AないしDを総合的に勘案すると、本件土地については、別図1のとおり路地状開発を行うことが合理的であると認められる。
(ロ)小括
上記のとおり、本件土地については、路地状開発を行うことが合理的であると認められるから、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路等の開設が必要であるとは認められない。
したがって、本件土地は、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要な宅地であるとは認められず、広大地の要件2を満たしていない。
(4)結論
上記のとおり、本件土地は、広大地の3要件のうち、用件2(開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであること)を満たしていないことから、用件3(中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの等ではないこと)を検討するまでもなく、本件通達に定める広大地に該当しない。
コメント
①本件において、本件土地の地積(394.16㎡)は面積基準を満たしているから、広大地であるか否か検討するまでもない、と審判所が述べるかと思いましたが、そうではなく審判所は広大地であるか否かは次の要件を満たせばいいと述べています。
要件1…その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であること
要件2…開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであること
要件3…中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの等ではないこと
のいずれの要件を満たす土地を広大地とする、と述べています。
又次のようにも述べています。
『広大地の3要件以外に、都市計画法に規定する「開発許可」を受けることが義務付けられた土地である必要はなく、特に面積基準を課したものではない』と、
したがって本件土地の地積が394.16㎡しかないけれど、広大地であるか否かをまず検討するとしています。
②本件土地は394.16㎡ですが、公共公益的施設用地が発生することが経済的に合理性があれば広大地として認めるが、路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行われていれば、公共公益的施設が発生しないので、広大地とは認めないと、審判所は述べています。
事例をみますと「本件各開発事例のうち、本件相続開始日前10年間の5事例をみると、道路を開設することなく路地状開発により行われたものが4事例ある」ので「路地状開発は一般的に行われているといえる」ので「本件土地については、路地状開発を行うことが合理的であると認められるから、…道路等の開設が必要ではなく…本件通達に定める広大地に該当しない」としました。
本件土地の存するその地域及びその周辺の地域等に路地状敷地の土地や路地状開発を行った土地があるか否かは広大地評価判定においては、とても大事な調査項目の1つです。
関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/)