開発道路が必要なので、広大地と判定した事例

2019年6月12日

広大地は、昨年(H29年)12月31日をもって終わりましたが、広大地による相続税還付はこれからも活用できます。

都市計画法の変更で、現在の4階建のマンションと同規模の建物は建築不可、又標準的使用は戸建住宅であるので、奥行の長い本件D土地は開発道路が必要と認められるから、広大地であるとした事例(東裁(諸)平20第151号 平成21年4月6日裁決―②)

本件各土地の概要

(1)本件D土地

本件D土地の地積は、3,355㎡で三方路に面した土地です。
本件D土地は法人に賃貸され、同社所有の建物(鉄筋コンクリート造陸屋根4階建の共同住宅、昭和45年新築)2棟の敷地の用に供されている広大地に該当するとした事例の画像
当該土地の賃貸借契約については無償返還届出書が原処分庁へ提出している。
本件土地の存する地域の用途地域は、第1種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率80%)である。
また第1種高度地区に該当し、建築物の高さは10mを超えてはならない旨制限されている
この制限は昭和48年12月25日から定められたものである。

(2)本件E土地

本件E土地は、■■駅の約400mに位置し、本件土地の地積は590㎡で、三方路に面した土地です。
本件E土地は、■■■に賃貸されている貸宅地である。
本件E土地の属する用途地域は準住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。
本件E土地の周辺は、一部に戸建住宅が存在するものの、その大部分は集合住宅及び店舗であり、本件E土地の隣地では、平成11年に3棟の共同住宅(6階建)が、平成16年に集合住宅(5階建)がそれぞれ建築されている。

(3)本件I土地

本件I土地は、駅の約600mに位置し、本件I土地の地積は885㎡の土地で二方路に面する土地である。
本件I土地は、■■■に賃貸され、同社所有の建物(鉄筋コンクリート造陸屋根3階建店舗共同住宅、昭和61年10月15日新築)1棟の敷地の用に供されている。
又、当該賃貸借契約について土地の無償返還届出書が原処分庁へ提出されている。
本件I土地は、その一部(約203㎡)が第一種低層住居専用地域に所在し、その他の部分(約682㎡)は第二種中高層住居専用地域に所在している。

本件I土地の大半を占める第二種中高層住居専用地域は建ぺい率60%、容積率150%である。又第一種低層住居専用地域に所在する部分は、建ぺい率40%、容積率80%である。

本件I土地の周辺は、一部に戸建住宅が存在するものの、4ないし5階建の集合住宅が多く建ち並び、店舗及び店舗兼住宅も見受けられる。

争点

広大地の評価の適否について

①本件D土地…標準的使用

②本件E土地、本件I土地…宅地の規模

請求人らの主張

(1)本件D土地…標準的使用

本件D土地は、昭和45年に4階建の中高層建築物が建設され現在に至っている。

しかし、本件相続開始日現在の都市計画法の規制によると4階建以上の建物の建築は不可とされており、低層住居の利用に適した宅地となっている。

そうすると、開発行為をする場合に公共公益的施設用地の負担が発生するものであり、広大地の評価をするのが妥当である。

(2)本件E土地、本件I土地…宅地の規模

本件E土地及び本件I土地は、戸建住宅が多く混在している地域にあり、その標準的な地積である125㎡~200㎡に比し著しく広大な宅地であるから、広大地の評価が妥当である。

原処分庁の主張

(1)本件D土地…標準的使用

本件D土地の最有効使用は、その属する地域内の2,000㎡を超える宅地の標準的使用から4階建程度の集合住宅用地であると認められる。
そうすると、最有効使用が中高層集合住宅用地である土地は、広大地の評価から除かれていることから、本件D土地については、広大地の評価の適用はない。

(2)本件E土地、本件I土地…標準的使用

本件E土地及び本件I土地は、それぞれの属する地域に、それぞれの土地の面積と同等以上の利用状況の土地が多数存在しており、その地域における標準的な宅地に比して著しく地積が広大な土地とは認められないから、広大地の評価の適用はない。

審判所の判断

イ 広大地の評価の適否について

(イ)本件D土地について

A 請求人らは、4階建建物の建築後の都市計画法の規制の変更により、本件D土地は低層住居の利用に適した土地になっており、開発行為をする場合に公共公益的施設用地の負担が生ずるから、広大地の評価の適用がある旨主張するのに対し、原処分庁は、本件D土地はマンション適地等であるから広大地の評価の適用はない旨主張する。

B マンション適地等は、その宅地を中高層の集合住宅等の敷地として使用するのが最有効使用であり、開発の際に道路等の潰れ地が生ずることはないことから、広大地には該当しないとされている。
そして、中高層の集合住宅等の敷地として使用するのが最有効使用と認められるか否かの判断は、その土地の周辺地域の標準的使用の状況を参考として判断するのが相当である。

そこで、本件D土地の周辺地域の標準的使用の状況をみると、本件D土地は、①低層住宅地における良好な居住の環境を保護する第1種低層住居専用地域に存し、建ぺい率が50%、容積率が80%であって、建築物の高さ制限は都市計画において第1種高度地区に指定されていることから10m以下であり、②付近の土地の利用状況は、一部に3階建程度の集合住宅が存するものの、大部分は戸建住宅のように供され、③本件相続開始日前5年程度の近隣での宅地開発状況は、戸建住宅となっているものが多くその中には地積2,000㎡以上の土地が含まれると認められる。

そうすると、本件D土地の周辺地域の標準的使用は戸建住宅の敷地であるということができる

C もっとも、本件D土地上には鉄筋コンクリート造陸屋根4階建の共同住宅が存在している。
しかしながら、当該建物は建築後既に35年を経過していること、本件相続開始日においては、当該建物建築後の都市計画の変更により、同じ4階建の建築物の建築はできないことなどの特殊事情があることからすれば、当該建物の存在を考慮しても、本件D土地はマンション適地等に該当するとはいえないというべきである。

D そして、①本件D土地周辺の標準的な戸建住宅の敷地面積は、190㎡程度と認められるところ、本件D土地の地積は、これに比して著しく広大と認められ、②また、本件D土地は、接面道路から奥行距離の長い形状と認められ、戸建住宅の敷地として利用する場合には、敷地内の道路開設など公共公益的施設用地を負担する必要が認められるから、本件D土地の相続税評価額の計算上、広大地の評価の適用を認めるのが相当である

(ロ)本件E土地及び本件I土地について

A 本件E土地及び本件I土地について、請求人らは、その標準的使用である戸建住宅の地積(125㎡~200㎡)の地積に比し広大である旨主張するのに対し、原処分庁は、周辺地域の標準的な宅地の地積と同等であるから広大な土地とは認められない旨主張する。

B 本件E土地及び本件I土地の地積は、590㎡(本件E土地)及び885㎡(本件I土地)といずれも開発許可を要する面積を超えるものでもあり、これらの地積が、その周辺地域の標準的な宅地の地積であるとも認め難い。

C しかしながら、本件E土地及び本件I土地それぞれの周辺地域の標準的な使用状況を検討すると、いずれも一部に戸建住宅が存在するものの、その大部分は中高層の集合住宅及び店舗等の敷地に利用されていることから、本件E土地及び本件I土地は、マンション適地等に該当すると認められる。

すると、マンション適地等に該当すると認められる本件E土地及び本件I土地については、上記のとおり、広大地の評価の適用は認められない。

以上

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コメント

評価対象地が中高層の集合住宅等の敷地用地として使用するのが最有効使用と認められるかどうかの判断は、その宅地の存する地域の標準的使用の状況を参考とすることになります。

本件においては、

①本件相続開始日前5年程度の近隣での宅地開発状況は戸建住宅となっているものが多くその中には地積2,000㎡以上の土地が含まれていること(ちなみに対象地は3,355㎡)

②付近の土地の利用状況は、一部に3階建程度の集合住宅が存するものの、大部分は戸建住宅の用に供されていること

③本件土地上に鉄筋コンクリート造陸屋根4階建の共同住宅が存在するが、本件相続開始日において当該建物建築後の都市計画の変更により、同じ4階建の建物の建築はできないこと等を理由にマンション適地等ではなく、広大地に該当するとしました。

本件土地上の建物(鉄筋コンクリート造4階建)は、既存不適格建築物に該当するため、現存する建物と同じものは建築不可となります。
本件D土地は原処分庁(税務署)は最有効使用は4階建程度の集合住宅が最有効使用なので広大地の評価の適用はないとしましたが、本件D土地上の建物は既存不適格建築物であること、その理由は都市計画の変更で第一種低層住居専用地域に変更になったこと等を相続税の申告時にその旨を書面添付するか、広大地判定の意見書を添付しておけば、税務署からマンション適地等と判断されずにすんだ可能性が高いと思われます。

本件土地の評価額は下記の通りになりました。このように広大地として認められるか否かによって、評価額は倍以上も違ってしまいます。

本件D土地

請求人(納税者):2億3,783万2,594円

原処分庁(税務署):5億599万8,416円

国税不服審判所:2億3,783万2,594円

用語:既存不適格建築物
建築時には適法でも、法令の改正等により現行法においては不適格なところがある建築物のこと
用語:書面添付制度
税理士法第33条の2に規定されている制度

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/