調停調書に基づく買取でも低額譲渡となった事例
調停調書に基づく買取でも、土地の時価より著しく低ければ、低額譲渡に当たるとした事例 (平成12年6月29日裁決 )
請求人の主張
本件遺産分割事件の調停の場において、本件相続人らから本件土地を買い取るようにとの申出を受けたが、当初は価額面で折り合いがつかず、交渉の結果、本件解決金の金額である4,000,000円まで本件相続人らが価額を下げたことから、最終的にその金額で本件土地の買取りに応じたものである。
したがって、本件解決金は、本件土地の適正な価額であり、これを無視することは、我が国の裁判制度を無視することになるから、調停によって算出された本件解決金を厳に尊重すべきであって、本規定を適用すべきではない。
原処分庁の主張
調停は、当事者間の紛争を解決するために第三者の仲介によって当事者がお互に話合い、当事者の互譲により法規の形式的運用にとらわれず実情に適した解決を期すものであることから、本件調停条項において本件解決金の額が取り決められたからといって、本件解決金の額が直ちに本件取得日における本件土地の時価を表すものとはいえない。
本件取得日における本件土地の価額は、13,284,336 円と認められ、 請求人は、本件土地の対価として本件解決金 4,000,000円を支払っているので、本件土地の価額と本件解決金との差額に相当する9,284,336 円については、本規定の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当し、当該差額は、請求人が本件相続人らから贈与により取得したものとみなされる。
そして、当該贈与により取得したものとみなされた金額を基に請求人の納付すべき贈与税額を計算すると、 2,507,800円となり、この金額と同額でなされた本件決定処分は適法である。
審判所の判断
本規定は、「著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を譲渡した者から贈与に因り取得したものとみなす」となっている。本規定は、法律的には贈与契約によって財産を取得したものではないが、 経済的には時価より著しく低い価額で財産を取得すれば、その対価と時価との差額については、実質的に贈与があったとみることができるので、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上は、これを贈与とみなす趣旨のものと解される。
本件解決金と本規定の適用については、「請求人が本件土地を時効取得したかのような部分もあるが、請求人が本件遺産分割事件の調停時に本件相続人らから本件土地を 4,000,000 円で譲り受けたことは、請求人の自認するところであって請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。」
本規定の趣旨からすれば、本規定が適用されるか否かは、本件遺産分割事件の調停の場で示された価額が本件土地の時価と異なる場合には、本件土地の時価に基づいてその判断がなされるべきであると解される。
そうすると、本件遺産分割事件の調停において本件土地の時価を本件解決金の額としたのであれば、先ず、本件土地の時価が明らかにされるべきであると考えられるが、本件調停調書においては本件土地の時価をいくらと算定したかが明らかではなく、当審判所が相当と認める本件土地の価額が本件解決金の額の3倍超となっていることからすれば、本件解決金の額が本件土地の時価を表すものとは認められない。
むしろ、本件解決金の額は、最終的には、それが事実であるか否かはともかく、請求人及びLが兄弟であるとの両者の認識に基づいて、本件相続人らから請求人に対して低廉の価額で本件土地を取得させる調停を成立させるために合意に至った金額と認めるのが相当である。
上記のとおり、本件取得日における本件土地の時価は、13,284,336 円であると認められるが、請求人は、本件解決金の額 4,000,000円を支払って本件土地を取得しているのであるから、請求人の本件土地の取得は、本規定の「著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合」に該当し、請求人は、時価と本件解決金との差額 9,284,336 円を本件相続人らから贈与により取得したものとみなされることとなる。そして、当該贈与により取得したものとみなされた金額を基に納付すべき贈与税額を算定すると2,507,800円となり、この金額と同額でなされた本件決定処分は適法である。