市街化調整区域の本件土地は、鑑定評価額を相当とした事例

2024年5月16日

市街化調整区域に存する本用土地の価額は、請求人の主張する鑑定評価額が相当とした事例 (関裁(諸)平 13第89号・ 平成14年6月18日)

本件土地の概要

本件第一土地(2,325㎡)は、農家集落の北側に位置し、幅員 約7mの市道からの距離が約40m の奥行が長い台形の無道 路地で、広葉樹, 竹等の雑木林である。
本件第二土地 (3,950㎡) は、農家集落の北側に位置し、幅員約4mの舗装市道 と幅員約2.7m の未舗装市道に接した、間口に比べ奥行が極端に長い土地で、高低差の平均が4mの法地である。
本件第一土地と本件第二土地とを併せて本件土地という。本件土地が存する地域は市街化調整区域で、昔からの農家集落地域で、単独での開発は困難である。

請求人の主張

請求人の申告における鑑定評価は、次のとおりであり、本件土地の価額は適正であるから、本件更正処分の全部の取消しを求める。

本件土地が所在する地域(以下、「本件地域」という)の標準画地は、幅員2mの未舗装市道に接する1,200㎡の平地林とした。 その理由は、本件地域は、昔からの集落を構成している地域であり、将来宅地化や事業用地化に適するような土地の存在はなく、宅地開発の可能性は極めて低い地域であること、そして、本件第一土地は無道路地であり、本件第二土地は幅員約 2.7mの未舗装市道に接していることから、評価対象の土地の現状とその土地の具備する効用が類似する土地を選定したためである。

本件土地における最有効使用は、当面現況利用 (雑木林)とした。 その理由は、本件第一土地は、市街化調整区域内の公道までの距離が約40mの無道路地で、現在は何ら利用できない状態にあり、また、本件第二土地は、市街化調整区域内の幅員約 2.7m の市道に接した、間口に比べ奥行が極端に長い土地で、高低差平 均4mの法地 (雑木林) となっており、現状では自宅裏に位置することから、防風林と法地としての効用しかないためである。

なお、市街化調整区域内の土地は、 駐車場あるいは資材置場に転用することが可能であるが、本件第二土地は、法地でしかも間口に比べ奥行が極端に長いことから、駐車場等に転用するには、多額の造成工事費が必要なこと、 通路を布設すると有効面積が相当縮小されること、 幅員 2.7mの道路では大型車の利用ができないこと等から駐車場等として使用することはできない。
なお、原処分庁の鑑定評価では、最有効使用は本件地域の宅地地域化を10年 後と想定し、一般住宅の敷地に供するものとして、開発法による価格を比較考量して標準画地の価格を算定しているが、本件地域の宅地化を考えること自体適切 ではないが、 仮に一般住宅敷地が最有効使用とみるとしても、現実味のある年数 で計算すべきであり、それは短くとも20年以上はかかるものと思われ、 20年では、 10年後の想定計算の評価額の半額以下になり、根拠のないものといえる。

原処分庁の主張

本件更正処分における鑑定評価は、次のとおりであり、本件土地の価額は適正であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
本件地域の標準画地は、幅員7mの舗装市道に接する2,000㎡の平地林とした。その理由は、本件地域の状況および周囲の宅地化の状況から、本件地域は宅地化への期待性を有する地域であると認められ、10戸程度の小規模開発でも需要は見込まれるものと考えたためである。また、本件地域内を東西に走っている幅員7mの舗装市道は、本件土地には接していないものの、本件土地に近いことから、本件土地の価格形成に影響を及ぼすものと認められる。

本件土地における最有効使用は、本件地域が宅地地域化するまで待ってから区画割りして、一般住宅の敷地に供することであると判定した。その理由は、本件地域は、宅地化への期待性を有する地域であると認められることから、宅地見込地と判断され、周囲の状況から最短で10年後は宅地開発が想定されるためである。

審判所の判断

本件土地の価額として、原処分庁および請求人のいずれの鑑定評価が適正であるかに争いがあるので、以下審理する。
原処分庁は、本件地域の中央部における都市計画道路の工事の完成により交通の利便性が高まるものと期待されると主張するが、本件地域における現状をみると、格別の変動要因があるものとは認められず、当分の間は、現状を維持するものと認められる。なお、原処分庁は、本件地域の標準画地は、本件地域を東西に走る幅員7mの市道沿いに10戸程度の開発が可能な2,000㎡の平地林とすべき旨主張するところ、確かに、本件地域には幅員7mの市道に接している山林も見受けられるものの、本件地域に散在している多くの山林はそのような状況にはなく、しかも、本件土地の現状を考えれば、本件地域が、その状況および周囲の宅地化の状況から宅地化への期待性を有する地域であるとまで認めることはできず、原処分庁の主張は採用することができない。

そこで、原処分庁および請求人のいずれの鑑定評価が適正であるかに争いがあるので以下判断することとするが、原処分庁および請求人の主張を整理すると、本件土地の価額について、その開差が大きい理由は、鑑定評価における標準画地の認定、最有効使用の考え方、取引事例の選定および規準価格の算定に大きな相違があるためと認められるので、これらを中心に判断する。
原処分庁は、雑種地(トラック置場)の売買のほか、倉庫等の敷地に転用する目的で売買している事例等を取引事例として選定しているが、上記における標準画地および最有効使用の考え方から採用された事例であることから、採用することはできない。

本件地域および本件公示地は、いずれも市街化調整区域内にあり、都市計画法上、開発行為は厳しく制限されており、転用が可能としても、駐車場、資材置場、学校、墓地等である。請求人が主張するように、駐車場、資材置場、墓地等に転用するためには、面的な広がりがあり、山林の開発を阻害するような行政的制約がないことが必要条件であるところ、本件地域は、このような条件を満たしているとは認められないが、本件公示地周辺は、現実として資材置場、墓地、産業廃棄物処理施設等が散見される。そうすると、昔からの集落地である本件地域の標準画地よりも、本件公示地が上位にあると判断される。なお、原処分庁は、本件地域の標準画地は宅地見込地であり、小規模の宅地開発も想定可能であるとしているが、都市計画法上、市街化調整区域に指定されている本件地域における現状から考えれば、にわかに採用することはできない。
以上審理したところによれば、本件土地の標準画地の認定、最有効使用の考え方、取引事例の選定および規準価格の算定のいずれについても請求人の主張には合理性があり、本件土地の価額は、請求人の主張する鑑定評価によることが相当であると認められることから、本件第一土地の価額は2,833万円、本件第二土地の価額は6,202万円となる。なお、原処分庁は、標準画地の価格の算定に当たり、開発法による価格を比較考量しているが、上記の考え方からすると、その必要はないものというべきである。
以上の結果、請求人の本件土地の価額は、申告に係る本件土地の価額と同額となるから、本件更正処分はいずれもその全部を取り消すべきである。

コメント

本件は、請求人と原処分庁の鑑定評価の争いになったが、鑑定評価における標準画地の規模の大きさ、最有効使用の考え方、取引事例の選定等において請求人鑑定評価額が合理性があると判断されて、請求人の主張が全面的に認められた。

それに反し、原処分庁側の鑑定書では本件地域の宅地化は短くても20年以上はかかるとの判断がされていることもあって、評価額は根拠がないと切り捨てられた。

将来予測については、不動産鑑定評価基準[総論]第4章の不動産の価格に関する諸原則の「XI予測の原則」において、「財の価格は、その財の将来の収益性等についての予測を反映して定まる。不動産の価格も、価格形成要因の変動についての市場参加者による予測によって左右される」と述べている。

本件のように市街化調整区域内の宅地化を予測するスピードによって地価へ大きく影響が及ぶことを考えると、宅地化への期間等は慎重に判断すべきである。
請求人と原処分庁の宅地化の考え方の比較は下記の通りである。

1.標準画地の規模の大きさについて
請求 人・・・幅員2mの未舗装市道に接面する 1,200㎡の平地林
原処分庁・・・ 幅員2mの舗装道に接面する 2,000㎡の平地林

2.最有効使用の考え方
請求 人・・・本件地域の宅地地域化は20年以上と想定
原処分庁・・・本件地域の宅地地域化は10年後と想定

3.取引事例の選定
請求人・・・山林を山林として売買している事例、畑を畑として売買している事例等を選定
原処分庁・・・倉庫等の敷地に転用する目的で売買している事例等