使用貸借は土地の評価に影響を与えるものではないとした事例

2024年5月7日

使用貸借は土地の評価に影響を与えない

使用借権は賃貸借契約に基づく権利に比べて権利性が極めて低く、土地の時価に影響を与えるものではないとした事例 (沖裁 (諸) 平 18第5号・ 平成19年3月28日)

本件土地の概要

本件土地は面積 205.78㎡で、借地人が所有する建物の敷地 として利用されており、 使用貸借により貸し付けられていた。

請求人の主張

原処分は次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

①本件鑑定評価における土地の相続税法第22条に規定する時価は請求人鑑定評価額(275万7,000円)であり、原処分庁の評価額は時価を超えており違法である。
②請求人鑑定評価額は、取引事例比較法、土地残余法に基づく収益価格、規準価格、個別格差補正および個別的要因、特殊性等の検討を加えた適正な不動産鑑定評価に基づくものであり、相続税法第22条に規定する時価といえる。

原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法であるので本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。

評価通達は合理性を有していることから、評価通達により難い特別の事情または評価通達に基づいて評価した価額が時価を超えていると認められる場合を除き、特定の納税者についてのみ評価通達に定める方式以外の方式によって評価することは、納税者の実質的負担の公平を欠くこととなり許されないというべきである。
本件土地は、評価通達により難い特別の事情は認められない。

審判所の判断

請求人鑑定評価額は、本件土地について使用借権が付着していることから、個別格差補正として使用借権の付着に伴う減価10%を行っている。

しかしながら、使用借権は、賃貸借契約に基づく権利に比し権利性が極めて低い上、親族間の情誼や信頼関係に基づく土地の無償使用関係であり、これに独立した経済的価値を認めることはできず、また、土地の時価に影 響を与えるものということもできないと解されている。 したがって、本件土地について、使用借権が付着していることによる減価を行ったことは相当とは認められない。

以上のとおり、請求人鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの請求人の主張には理由がない。

原処分庁は、評価通達に基づき 947万5,757円と算定している。

本件土地について評価通達により難い特別の事情は認められず、評価通達に定める評価方法は合理的と解されていることからすれば、評価通達に基づき評価するのが相当である。 したがって、評価通達の定めに基づく原処分庁の評価方法に何ら不都合は認められないことから、原処分庁評価額は相当である。

コメント

審判所は、「使用借権は、賃貸借契約に基づく権利に比し権利性が極めて低い上、 親族間の情誼や信頼関係に基づく土地の無 償使用関係であり、これに独立した経済的価値を認めることはできない」として土地の価格の減価を認めなかった。

本件においては、請求人鑑定評価額は使用貸借の付着による減価を10% 認定しているが、その根拠は甚だ難しい一面があり、 相続税法上では使用借権の価値は認めていないケースがほとんどではないだろうか。

土地の使用権に関する判例等では、 使用借権の価値を認めているものがある。
・最高裁第三小法廷平成6年10月11日判決・・・使用権の価値を更地 価格の5%と認定
・東京地裁平成15年11月17日判決・・・ 使用債権の価値を更地価格の 15%と認定

不動産鑑定評価基準では、使用借権については触れていない。なお、損失補償基準では使用借権の価値を認めている。