マンション適地か否か
相続により取得した土地は、いわゆるマンション適地等に該当するので、広大地には該当しないとした事例
(平成24年7月4日裁決 東京・公開)
1.本件土地の概要
本件A土地1604.17㎡、本件B土地2108.19㎡(合わせて本件各土地という)。
第1種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率200%)。
本件土地は、駅から約500mに位置し同駅周辺には、スーパーマーケット等の商業施設が存する。
本件各土地は、R小学校の北方約400mに位置する。
本件B土地及びその隣接地は請求人らを売主として売却され分譲用共同住宅(RC造7階建地価1階)が建築され売却された(総戸数79戸)
2.原処分庁の主張
次のとおり、本件各土地はいずれもマンション適地等に該当することから、広大地通達に定める広大地として評価することはできない。
イ 本件各土地の最有効使用を判断するに当たっては、広大地通達に定める「その地域」の標準的使用の状況を参考とするべきであるところ、「その地域」とは、評価対象地が属する地域の土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められるある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものというべきである。
本件各土地が属する「その地域」とは、本件各土地が所在するa県b市q町○-○、同番に隣接する同○番、同○番及び同○番の地域のうち用途地域が第1種中高層住居専用地域として同一の地域である。
ロ 上記イの地域には、戸建住宅の用に供している土地もあるものの、中高層のマンションが多く存在している。
ハ 平成10年以降、上記イの地域において、中高層のマンションが建築された土地は複数存する反面、開発許可を要する規模の土地で、これを細分化して戸建住宅が建築されたものはない。
ニ 本件各土地はマンションを建築することが可能な容積率200%の第1種中高層住居専用地域にあり、d鉄道○線e駅から約500メートルの距離に位置し、交通の便も良いことなどマンションの建築に適している。
ホ 本件相続開始日後、本件B土地に7階建てのマンションが建築されたことは、本件相続開始日時点においても、本件各土地がマンション適地等であったという判断が正しいことを裏付けるものである。
3.請求人らの主張
次のとおり、本件各土地はいずれも明らかなマンション適地等とは認められないから、広大地通達に定める広大地として評価すべきである。
イ 本件各土地の周辺地域の状況等
(イ) 請求人ら主張地域は、戸建住宅とマンションが混在している地域である。
(ロ) 請求人ら主張地域のa県b市f町○丁目において、本件A土地と同程度の地積である土地が平成10年に開発許可を受け、戸建住宅用地として開発されている。また、上記(1)のイの原処分庁の主張する「その地域」内であるa県b市q町○-○の街区においても、現に、平成16年に戸建住宅が6棟建築されている。
(ハ) 本件各土地は、容積率200%の第1種中高層住居専用地域に存するが、容積率200%の消化が困難である。また、戸建住宅志向が強い地域である。
ロ 最有効使用についての専門家の意見
マンション適地等の判定には、評価対象地の個別の特性を考える必要があるところ、次のとおり、専門家が本件各土地の形状(不整形)からして容積率が消化できないことや、戸建住宅志向が強い地域であることなど、具体的な理由を掲げて、マンションの敷地よりも戸建住宅の敷地に適しているとの意見を述べていることから、本件各土地はマンション適地等に該当しない。
(イ) 本件相続開始日後、本件B土地及び隣接する駐車場を取得したQ社の担当者は、本件各土地の所在する地域は戸建住宅志向が強いこと及び本件各土地はいずれも不整形であり容積率200%を消化するマンションの建築ができないことから、本件各土地は、いずれも戸建住宅用地に適していると申述している。
(ロ) Q社が依頼した仲介業者は、本件各土地は、いずれも戸建住宅用地に適していると申述している。
4.審判所の判断
(1)当てはめ
ロ マンション適地等に当たるか否かについて
(イ) まる1上記(2)のロの(ホ)のとおり、本件地域は用途地域が第1種中高層住居専用地域であり、建ぺい率60%及び容積率200%であるから、マンション等の建築に係る規制が厳しくない地域であること、まる2上記(2)のハのとおり、本件各土地はd鉄道○線e駅、公立の小学校及びスーパーマーケット等に近接するなど、公共施設及び商業施設への接近性に優れていること、まる3上記(2)のニのとおり、本件地域には複数のマンションが存すること、まる4およそ、マンションの敷地とするためには、ある程度大規模な地積が必要と認められるが、上記(2)のホのとおり、本件地域において、本件相続開始前10年間における500平方メートル以上の土地に係る建物の建築状況を確認したところ、2件の建築事例があり、2件ともマンションの建築事例であること、まる5上記(2)のチのとおり、本件相続開始日後、現に本件B土地及びその隣接地を敷地としてマンションが建築されていることからすると、本件各土地は明らかにマンション適地等に該当するものと認められる。
(ロ) 請求人らの主張について
A 請求人らは、まる1請求人ら主張地域は戸建住宅とマンションが混在する地域であること、まる2請求人ら主張地域内であるa県b市f町○丁目において、本件A土地と同程度の地積である土地が平成10年に開発許可を受け、戸建住宅用地として開発されていること及びまる3a県b市q町○-○の街区(本件地域内)においても、現に、平成16年に戸建住宅が6棟建築されていることから、本件各土地はマンション適地等とは認められない旨主張する。
しかしながら、上記イのとおり、マンション適地等の判定の基礎とする地域は、請求人ら主張地域でなく本件地域とすることが相当であるし、請求人らが平成10年に戸建住宅用地に開発された土地があるとするa県b市f町○丁目は、請求人らの主張するd鉄道○線の沿線地域ではなくむしろd鉄道△線の沿線地域である。
1 また、マンションの敷地とするためには、ある程度大規模な地積が必要と認められるところ、
請求人らが主張する平成16年に戸建住宅が6棟建築分譲された土地は、上記(2)のヘのとおり、間口が約25メートル、奥行が約14メートルで、地積が約365平方メートルの土地であり、本件各土地の地積に比して著しく地積が小さい土地であることに加え、
2 本件地域には、まるア本件相続開始日現在、複数のマンションが存していたこと及びまるイ本件相続開始日後、本件B土地及びその隣接地を敷地として、現にマンションが建築されていることなどからすると、
上記1の土地に戸建住宅が建築分譲されたことをもって、本件各土地がマンション適地等でないと認めることはできない。
したがって、請求人らの主張は採用できない。
B 請求人らは、本件各土地は、容積率200%の第1種中高層住居専用地域に存するが、容積率200%の消化が困難であるし、また、戸建住宅志向が強い地域であるから、マンション適地等とは認められない旨主張する。
しかしながら、1. マンションの建築分譲は、戸建住宅の建築分譲に比して、道路等の潰れ地を必要とせず、土地の有効利用の点において優るところ、本件各土地において、マンションの建築を不可能とする事情は見当たらない上、
2. まるア本件各土地は公共施設及び商業施設への接近性に優れていること、
まるイ本件相続開始日現在、本件地域には複数のマンションが存し、
まるウ本件相続開始日後、本件B土地及びその隣接地を敷地として、現にマンションが建築され、当該マンションはしゅん工前に全戸が完売しているといった事情などからみて、本件地域はマンションが選好される地域であると認められることなどからすると、本件地域がマンションより戸建住宅の志向の強い地域であると認めることはできないし、仮に容積率を200%使用することができないとしても、そのことをもって、本件各土地がマンション適地等ではないと認めることもできない。
したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
D 請求人らは、本件地域内にあるT及びSの各マンションは、本件被相続人が、空き地のままにしておくわけにもいかないために建てた賃貸マンションであり、当該土地が最有効使用されていたとはいい難いから、本件各土地と状況が大きく異なるこれらのマンションの建築事例が存在することをもって、マンション適地等であると判定することは不合理である旨主張する。
しかしながら、マンション適地等の該当性の判断は上記(1)のニで述べた要素を検討して客観的にされるべきものであるから、上記要素の1つである「その地域」におけるマンション等の建築の状況を検討するに当たり、現に戸建住宅ではなくマンションが建築されている以上、当該マンションが存する事実をもって、マンション適地等であるとの判定の基礎の一とすることは何ら不合理ではない。
したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
F 請求人らは、マンション適地等の判定には評価対象地の個別の特性を考える必要があるところ、本件各土地については、Q社の担当者などの専門家が、その形状(不整形)からして容積率が消化できないことや戸建住宅志向が強い地域であることなどの具体的な理由を挙げて、マンションの敷地よりも戸建住宅の敷地に適しているとの意見を述べていることを根拠として、本件各土地はマンション適地等に該当しない旨主張する。
しかしながら、上記Bのとおり、本件地域がマンションより戸建住宅の志向の強い地域であると認めることはできないし、仮に容積率を200%使用することができないとしても、そのことをもって、本件各土地がマンション適地等ではないと認めることもできない。
したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
ハ 結論
以上により、本件各土地はそれぞれマンション適地等に該当すると認められるから、広大地とは認められない。
コメント
本件各土地がいわゆるマンション適地等に該当するか否かの判断をするに当たり、審判所は、「本件相続開始日後、本件B土地に7階建てのマンションが建築されたことは本件相続開始日時点においても、本件各土地がマンション適地等であったという判断が正しいことを裏付けるものだ」と公言しています。
また、次のようにも言っています。「マンション適地等の該当性の判断は客観的にされるべきものであるところ、上記要素の1つである「その地域」におけるマンション等の建築の状況を検討するに当たり、財産評価の時点のみならずその後のマンション等の建築の状況を検討し、本件各土地が本件相続の開始時点においてマンション適地等であるとの判定の基礎の一として、本件相続開始日後に本件B土地及びその隣接地上に当該マンションが建築分譲された事実があることを考慮することに何ら問題はない。
したがって、請求人らの主張はいずれも採用することはできない。」したがって、相続開始日後に相続した土地をどのように活用するかが如何に大切であるかがわかります。すなわち、相続税の評価は相続発生日の状況で判断するのが本来の姿ですが、相続発生日後のその土地の利用状況の変化は、その地域がどのような地域に移行しつつあるのかを知る判断材料になりますし、国税不服審判所も原処分庁も現実にそのような動きがあることを認識する必要があります。
国税庁は、中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものの判断基準として次の2項目を掲げています。
その地域における用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制等が厳しくなく、交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性(社会的・経済的・行政的見地)から判断して中高層の集合住宅等の敷地用地に適していると認められる場合2その地域に現に中高層の集合住宅等が建てられており、また、現在も建築工事中のものが多数ある場合、つまり、中高層の集合住宅等の敷地としての利用に地域が移行しつつある状態で、しかもその移行の程度が相当進んでいる場合上記2項目に該当しないならば、マンション適地等ではないといっています。
ところで、中高層とは、相続税では、原則として地上階数3以上のものをいいます。
また、集合住宅等には、分譲マンションのほか賃貸マンション等も含まれるので要注意です。
関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/)