開発行為を了することと広大地評価判定
本件土地は、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として有効に利用されていることから、広大地には当たらないとした事例
(大阪・公開 平成23年4月21日裁決)
本件各土地の概要
本件甲土地の地積は、742.98㎡の土地で、本件甲土地上には鉄筋コンクリート造陸屋根4階建共同住宅(以下甲地上建物という)が存在する。
本件甲土地は、二方路の土地で、甲地上建物は、実行収入割合が100%に近く有効に利用されている。
甲地上建物は、平成14年1月18日新築で、第二種住居地域(建ぺい率6%、容積率200%)に存する。
本件乙土地の地積は、489.45㎡の土地で、本件乙土地上には鉄骨造陸屋根4階建ての共同住宅(以下乙地上建物という)が存在する。
乙地上建物は平成2年8月8日新築で、実行収入割合が100%に近く有効に利用されている。
なお、本件乙土地は、第二種住居地域(建ぺい率6%、容積率200%)に存する。
争点
本件各土地は、広大地に該当するか否か。
請求人らの主張
本件各土地は、次の理由により広大地に該当する。
(1) 本件各土地は、近傍の地価公示地及び〇〇県の基準地を参考にする限り、地積が著しく広大なことは明らかである。
また、乙土地の地積は〇〇市における都市計画法上の開発許可を要する面積基準500㎡に満たないが、平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号「広大地の判定に当たり留意すべき事項(情報)」(以下「平成17年情報」という。)には、「ミニ開発分譲が多い地域に存する土地については、開発許可を要する面積基準に満たない場合であっても、広大地に該当する場合があることに留意する。」と注記されており、乙土地の周辺地域にはミニ開発分譲が多いことからこれに該当する。
(2) 平成17年情報には、「著しく広大であるかどうかの判定は、当該土地上の建物の有無にかかわらず、当該土地の規模により判定することに留意する。」と注記されていることから、本件各土地上に建物が建築されていることは、地積が著しく広大であるかどうかの判定に影響を及ぼさず、本件各土地は広大地に該当する。
(3) 本件各土地は賃貸マンションの敷地となっているが、平成17年情報には、現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地であるか否かは、その地域の土地の標準的使用といえるかどうかで判定する旨が記載されている。本件各土地が所在する地域の近傍地域が時の経過とともに一群の戸建住宅分譲用地へと移行しつつあることから、賃貸マンション敷地である本件各土地は現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地に該当しない。
原処分庁の主張
本件各土地は、次の理由により広大地に該当しない。
(1) 本件各土地は、マンションの敷地及びその入居者専用の駐車場敷地として利用されていることから、既に開発を了している。
したがって、本件各土地は公共公益的施設用地の負担が生じる余地はなく、標準的な地積に比して著しく広大であるかどうかの判断をする必要がない。
また、乙土地については、平成18年ないし平成20年の住宅地図によれば、本件各土地の周辺地域において、ミニ開発分譲が多数存在するとは認められないことから、平成17年情報の「開発許可を要する面積基準に満たない場合であっても、広大地に該当する場合」には該当しない。
(2) 本件各土地は、上記(1)のとおり、広大地に該当しないのであって、現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地であるかの判断及びマンション適地に該当するかどうかの判断は必要としない。
また、請求人らは、本件各土地はマンション適地ではなく、戸建住宅分譲用地として開発することが経済的に最も合理的な使用である旨主張するが、甲土地には、平成14年1月に鉄筋コンクリート造陸屋根4階建の賃貸マンションが建築され、また、乙土地には、平成2年8月に鉄骨造陸屋根4階建の賃貸マンションが建築されているところ、課税時期(本件相続開始日)において築年数がわずか5年又は17年程度のマンションを取り壊して戸建住宅分譲用地として開発することは通常想定されないし、そのような開発が経済的に最も合理的な開発であるとは認められない。
審判所の判断
(1)本件各土地の地積
広大地通達の適用される土地は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地に該当する必要があるところ、甲土地の地積は742.98㎡であって、〇〇市における都市計画上の開発許可を要する面積基準である500㎡を上回っているが、乙土地の地積は489.45㎡であって、上記基準を若干下回っている。
(2) 本件各土地の使用状況
甲土地は、開発行為に関する工事の検査を受けて平成14年1月18日に新築された鉄筋コンクリート造陸屋根4階建の共同住宅(甲地上建物)の、乙土地は、平成2年8月8日に新築された鉄骨造陸屋根4階建の共同住宅(乙地上建物)のそれぞれ敷地として使用されており、本件各建物は、実効収入割合が100%に近いほどに有効に利用されている。
そして、本件各建物につき財務省令で定める耐用年数は、甲地上建物については47年、乙地上建物については34年であり、いずれの建物も外観上建築後の経年によることを超えて著しく老朽化又は損傷している事実は認められず、また、本件の全証拠によってもこれらの事実を認めることができないことからすれば、いずれの建物も今後相当の期間利用することができるものと見込まれる。
以上のとおり、本件各土地は開発行為を了した上共同住宅の敷地として使用されており、近い将来において新たな開発行為を行うべき事情も認められない。
(3) 本件地域における宅地の使用状況
本件地域内に存する宅地の用途別の面積の割合は、戸建住宅用地が約26%、共同住宅用地が約22%、法人等事業所用地が約21%、倉庫・車庫・工場用地が約30%であり、これらの用途のいずれもが本件地域における宅地の標準的な使用形態であると認めるのが相当である。
そして、本件各土地は、これらの標準的な使用形態の一つである共同住宅用地として使用されているものと認められ、周囲の状況に比して特殊な形態で利用されているものとは認められない。
すなわち、本件各土地は、その周辺地域の標準的使用状況に照らしても、共同住宅用地として有効に利用されているものと認められる。
(4) 小括
上記によれば、本件各土地は、その地積がa市が定める開発許可を要する面積基準を上回るか、又は同基準を若干下回るものの、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として、その周辺地域の標準的な使用状況に照らしても有効に利用されているものと認められるから、上記の広大地通達の趣旨にかんがみても、広大地通達にいう広大地には該当しないものと認めるのが相当である。
請求人らの主張について
(1) 本件各土地について開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要である旨の主張について
上記のとおり、広大地通達の趣旨によれば、いわゆる開発許可を要する面積基準以上の土地であっても、公共公益的施設用地の負担がほとんど生じないと認められる土地については、「広大地」に該当しないと解されるところ、請求人は、本件各土地について、開発行為を行うとした場合に別紙3のとおり道路として公共公益的施設用地の負担が必要になる旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件各土地は、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として有効に利用されていると認められるから、本件各土地について開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地である道路を開設することの要否について検討する必要はなく、この点に関する請求人らの上記主張は、採用することができない。
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コメント
本件裁決書によればその周辺地域の標準的使用状況等について下記のように分析しました。
『本件地域内に存する宅地の用途別の面積の割合は、戸建住宅用地が約26%、共同住宅用地が約22%、法人等事業所用地が約21%、倉庫・車庫・工場用地が約30%であり、いずれもが本件地域における宅地の標準的な使用形態であると認めるのが相当である。
そして、本件各土地は、これらの標準的な使用形態の一つである共同住宅用地として使用されているものと認められ、周囲の状況に比して特殊な形態で利用されているものとは認められない。
すなわち、本件各土地は、その周辺地域の標準的使用状況に照らしても、共同住宅用地として有効に利用されているものと認められる。
したがって、本件土地は『広大地通達にいう広大地には該当しないと認めるのが相当である』と。
本件地域における土地の利用状況は、戸建住宅が約26%、共同住宅が約22%、法人等事業所用地が約21%・倉庫・車庫・工場用地が約30%ですね。
この地域は上記の用途の混在地域で、「いずれもが本件地域における宅地の標準的な使用形態であると認められる」と記載されていますが、もう少踏み込んだ分析をお願いしたかったですね。
たとえば、相続発生日までの10年間の開発状況やマンション建築状況・倉庫・車庫・工場棟の建築状況を時系列に分析すれば、その地域がどのような地域に移行しつつある状態で、しかもその移行の程度が相当進んでいるのかが分かってくると思います。
本件の場合、『すなわち、本件各土地は、その周辺地域の標準的使用状況に照らしても、共同住宅用地として有効に利用されているものと認められる。』と決めつけるのはとても残念です。
関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/)