容積率300%の地域と広大地について

2019年6月12日

広大地は、昨年(H29年)12月31日をもって終わりましたが、広大地による相続税還付はこれからも活用できます。

 

 相続開始日以前20年間における建物の建築状況は、中高層の集合住宅が3件ある一方、戸建住宅の土地開発事例はない。また、容積率300%の地域であることを勘案すると、本件土地はマンション適地に該当するから、広大地に該当しないとした事例(関裁(諸)平27第6号 平成27年8月25日裁決)広大地に該当しないとした事例

本件土地の概要

本件土地の地積は、1,092.12㎡の土地である。本件土地は、昭和63年に建築された鉄筋コンクリート造地上4階建ての賃貸用集合住宅の敷地として使用されている。本件土地は、北側幅員約8.5mの道路、東側幅員約5.4mの道路に接面する角地である。
本件土地の属する用途地域は、準工業地域(建ぺい率60%、容積率300%)である。

争点

本件土地は、広大地に該当するか否か。

請求人らの主張

次の理由により、本件土地は広大地に該当する

イ 次の理由により、本件土地はマンション適地(広大地通達に定める中高層の集合住宅等の敷地用地に適している土地をいう。以下同じ。)に該当しない。

(イ)請求人ら主張地域は、戸建住宅と中高層の集合住宅の敷地が混在する住宅地域であり、敷地面積100㎡程度の戸建住宅も標準的使用の一形態であること、及び、本件土地は広大な土地でありその周辺には戸建分譲開発事例があることからすると、本件土地の最有効使用は戸建分譲素地としての使用と判断される。

(ロ)容積率が300%の地域であっても、それだけでは直ちにマンション適地ということにはならないし、本件土地が現に中高層の集合住宅の敷地の用に供されていることをもって広大地に該当しないとはいえない。

(ハ)本件土地は、最寄駅からの徒歩での所要時間が10分を超えることやマンション敷地としては面積の規模が狭小であることから、市場性が劣り、マンション敷地には不適当である。

(ニ)最有効使用の判定材料としての事例の収集に当たって、適切な判断材料になり得る事例は、平成18年3月に建築確認申請がされたマンション開発及び平成24年開発の戸建て分譲住宅があるが、いわゆるリーマンショック後の開発である後者の事例の方が、本件においては、事例としての価値がある。

ロ 請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積は、70㎡から150㎡までであり、本件土地はそれに比して著しく地積が広大な土地に該当する。そして、本件土地の周辺において近年行われた戸建建築事例等から、本件土地における1区画当たりの想定面積はおおむね100㎡と判断されるところ、路地状開発方式による区割りを想定すると、その規模、形状の制約から奥行方向に3画地を配置することとなり、路地状部分の幅員が大きくなり過ぎ、現実的ではないため、開発道路方式によることが妥当であるから、公共公益的施設用地の負担が必要と認められる。

原処分庁の主張

次の理由により、本件土地は広大地に該当しない。

イ 次の理由により、本件土地はマンション適地に該当する。

(イ)原処分庁主張地域にはマンション及び工場等が存しており、「その地域」の標準的使用は、中高層の集合住宅等又は工場等の敷地用地である。

(ロ)原処分庁主張地域の容積率は300%であること、本件土地の面積が開発許可面積基準以上であること、及び、本件土地は幅員8.5mの市道に接しており、容積率を十分に活用できない地域には所在していないことから、中高層の集合住宅等を建築することについて特段の支障を来す事情は認められない。

(ハ)原処分庁主張地域においては、本件相続開始日以前の過去10年間における500㎡以上の土地に係る建物の建築状況として、平成13年8月及び平成19年7月に各1棟ずつ建築された2件のマンション建築事例(なお、後者は請求人が主張する平成18年3月に建築確認申請がされたマンション開発と同じ物件である。)がある。

審判所の判断

イ 広大地通達に定める「その地域」について

(イ)北側は■■■、南側は■■■■、西側は■■■■、東側は■■■■で囲まれた地域(別図の⑪から⑬までの街区)が、本件土地に係る広大地通達の定める「その地域」に当たるというべきである(以下、「本件地域」という。)。

ロ 本件土地はマンション適地に該当するか否か

(イ)マンション等の建築状況について

本件地域の用途別の面積割合は居住用住宅用地が約61%であること、中高層の集合住宅用地が7画地あり、用途別の面積割合は、中高層の集合住宅用地が約47%、戸建住宅用地が約14%であることが認められ、これらの事情に照らせば、本件地域の標準的使用は中高層の集合住宅用地及び戸建住宅用地であり、中高層の集合住宅用地としての使用割合(約47%)が戸建住宅用地としての使用割合(約41%)に比べ格段に高く、また、本件土地は現に中高層の集合住宅の敷地用地とされている。

さらに、本件地域において、本件相続開始日から過去20年の間における本件土地と同規模の地積である土地に係る建物の建築状況は、中高層の集合住宅が建築された例が3事例ある一方、戸建分譲の土地開発事例はなかった。

これらの事情に照らせば、本件地域は、主として中高層の集合住宅用地として利用されている地域とはいえ、本件相続開始日後の建築状況(本件土地と同規模の地積である土地における戸建分譲の土地開発事例が1件ある一方、地積規模は小さいものの中高層の集合住宅の1件建築されている。)を考慮しても、本件地域における土地の主たる利用状況に変化があったとはいえない。

(ロ)用途地域や地方公共団体の開発規制について

本件土地は準工業地域に所在し、容積率が300%、建ぺい率が60%であると認められ、計算上は5階建の建物の建築が可能であるところ、接面道路の幅員(約8.5m)や、接面道路と接する距離(約36.0m)からすると、本件土地に中高層の建物を建築することについて特段の支障を来す状況は見受けられない。

(ニ)小括

以上によれば、本件土地は、主として中高層の集合住宅用地として利用されている地域に存し、その容積率及び建ぺい率に加え、中高層の建物を建築することができないような開発規制もなく、居住用住宅用地に適した土地であることを総合的に勘案すれば、本件土地の最有効使用は、中高層の集合住宅等の敷地として一体的に利用することであると認めるのが相当である。

したがって、本件土地はマンション適地に該当するから、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地である道路を開設することの要否について検討するまでもなく、広大地に該当しないというべきである。

ハ 請求人らの主張について

(イ)また、請求人らは、最寄駅からの徒歩で所要時間が10分を超えることやマンション敷地としては面積規模が狭小であることから、マンション敷地には不適当である旨、また、最有効使用の判定材料としては、いわゆるリーマンショック後の開発である戸建分譲事例の方が事例としての価値があることから、本件土地の最有効使用は戸建分譲素地である旨主張する。

しかしながら、最寄駅からの徒歩で所要時間が10分を超えることをもって直ちにマンション適地の該当性が否定されるとはいえないし、本件土地の地積は1,092.12㎡であるところ、近隣における開発事例に照らしてもマンション敷地としてそれほど狭小ともいえない。

また、本件地域におけるリーマンショック後の開発事例は1件にすぎず、これをもって、本件土地の最有効使用に係る上記判断を左右するとは認め難い。

したがって、上記の点に関する請求人らの主張にも理由がない。

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コメント

広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます。

ただし中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは、広大地には該当しません。

又原則として容積率300%以上の地域に所在する土地は広大地には該当しません。その理由は戸建住宅の敷地用地として利用するよりも中高層の集合住宅等の敷地用地として利用する方が最有効使用と判断される場合が多いことから容積率300%以上の地域は広大地には該当しないとしています。

そこで本件土地についてみてみますと、

①本件土地上に鉄筋コンクリート造4階建の賃貸用集合住宅が存すること

②本件土地は容積率300%(前面道路幅員約8.5m)に存すること

③本件地域では集合住宅用地としての使用割合(約47%)が戸建住宅用地としての使用割合(約41%)に比べて高いこと

④③より本件地域の標準的使用は中高層の集合住宅の敷地用地と判定したこと

⑤本件相続開始日から過去20年間において中高層の集合住宅の建築事例が3事例あるが戸建分譲の土地開発事例は存しなかったこと

以上から判断して本件土地は広大地に該当しないと審判所は判断しています。

このようにその地域の状況の変化を踏まえて広大地の判断が求められるのではないかと考えられます。

20181206広大地図

 

 

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/