借地権価額控除方式が合理的とした事例

2024年4月18日

土地の所有者と賃借人は同族なので借地権価額控除方式が合理的とした事例 (沖縄(諸)平15第7号 平成15年9月2日)

本件土地の概要

本件土地は、倉庫の用に貸し付けられた宅地 (1,493.96m2)で, 本件土地の所有者である被相続人と賃借人とは同族関係者という関係にある。 なお、本件土地の賃貸借契約書も存在せず、借地権は自然発生的に生じたもの (審判所の判断)といえる土地である。

本件土地の賃貸に係る賃料は、周辺の賃料の相場は固定資産税の6から7倍であるとの当時の税理士からのアドバイスにより、270万円 (平成〇年以降は240万 円)と決定した。 なお、 昭和〇年当時、本件土地周辺地域においては宅地の賃貸に当たり権利金授受の慣行はないため、当該宅地の賃貸に当たり権利金の授受はない。

請求人の主張

本件土地の価額は、請求人が提出した鑑定評価書の鑑定評価(以下、本件鑑定評価という) による価額 6,900万円を採用すべきである。
すなわち、本件鑑定評価の方法は、実際支払賃料(賃料は3年ごとに4%上昇するものと仮定)を還元 (還元利回りは5%を適用) して求めた収益価格と、底地取引事例を収集して、底地の価額が自用地の価額に占める割合(底地割合)を30%として求めた試算価格とを、3対1の比率で加重平均することにより決定するというものであり、合理的な評価方法である。

原処分庁の主張

あらかじめ定めた評価方法によって画一的に課税財産の時価を算定する取扱いは、納税者間の公平および納税者の便宜等という見地から合理的であり、 評価通達に定められた評価方法および基準が合理 的なものである限り、適法なものと解されている。
本件更正処分において、本件土地の価額は評価通達に定める貸宅地の評価の定めに従って適正に算定されており、また、本件土地の価額を評価通達に定める貸宅地の評価方法以外の方法によって評価しなければならない 「特別の事情」は認 められないから、評価通達に基づき本件土地の価額を1億6,134万7,680円 = [18万円(路線価)× 1,493.96m2(面積)×(1-40% (借地権割合))] と算定して行った本件更正処分は適法である。

審判所の判断

本件土地に、将来、借地権を併合して完全所有権となる潜在的審判所の判断価値が存すると認めることが困難である「特別の事情」が存する場合には、借地権価額控除方式の合理性の根拠を失うことになるから、そのような「特別の事情」の有無について検討すると次のとおりである。
すなわち、本件土地の賃貸借の状況は、①本体土地の賃貸借に係る契約書は存在しないこと、②本件土地の所有者である被相続人と賃借人とは同族関係者という関係にあるということ以外に本件借地契約における契約条件は明らかではなく、結局、本件土地にかかる借地権は、被相続人という特別関係者の間で、倉庫の建設敷地として利用することを目的として本体土地を賃貸借した事実に基づき自然発生的に生じたものということができ、一般的な第三者間の借地契約におけるものよりも、将来、本体土地とその上の借地権とが併合し、完全な土地所有権となる可能性はより高いものと認められるから、本件土地に、将来、借地権を併合して完全所有権となる潜在的価値が存すると認めることを困難とする 「特別の事情」はない。

特別な事情の存在は認められない

次に、請求人は、収益還元法による収益価格を基準として底地割合方式に基づく試算価格をも十分に関連づけて算定した価額は、時代の要請に適うもので合理性がある旨主張する。
しかしながら、請求人の採用する収益還元方式および底地割合方式には、それぞれ次の問題が存在することから、いずれの評価方式も、相続税法第22条の趣旨および上記の考え方に照らして、合理性を有するものとは認めがたい。
本件鑑定評価においても、「純収益」は,平成○年中における年間地代から公租公課(固定資産税) を控除し、これに3年ごとの4%の地代上昇率を加算したものとするが、これは標準化されたものとはいえないし、また、「資本還元率」 は5% を適用しているが、その根拠は示されていない。

借地権割合については、原処分庁において、長年にわたり、借地権の売買実例価額、精通者意見価額等を基として評定され、公開されているものであることが認められるから、一定の地域における借地権の実勢価額を反映しているものと考えられるが、底地割合については、底地そのものの取引事例は、借地権の取引事例に比してはるかに少ないものと予測され、しかも、本件鑑定評価も認めるように、収集した取引事例には底地割合にかなりのばらつきがあるということからも、 取引事例から求められた底地割合が、その地域の底地の実勢価額を反映し得るほどの指標性をもつものとは認め難いといわざるを得ない。

なお、請求人は、相続税法第22条にいう貸宅地の時価は、底地を借地人に売 却する場合の価額 (限定価格)をいうのではなく、底地を第三者に単独で譲渡する場合の価額(正常価格)をいうものと解するべきである旨主張する。
しかしながら、一定の目的のために試算価格が種々算定されるということは確かであるが、 財産の評価においては、 評価の対象である貸宅地の相続開始時の状況に着目し、その貸宅地の価額は、単なる地代徴収権の価額にとどまらず、将来、借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価額が形成されるものであるということであるから、一般的に、借地権価額控除方式により算定した価額が時価に相当するとすることに合理性を有するものと認められ、仮にそのような潜在価値に着目した価額が形成されない「特別の事情」が存する貸宅地の場合には、その貸宅地の価額は、その事情を考慮して評価すべきものであるということにある。

したがって、 本体土地には、このような「特別の事情」の存在は認められないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

以上、検討したところによれば、貸宅地に係る評価通達および不動産鑑定評価基準の定めは合理性を有するものと解することができるところ、 請求人が主張する評価方式は、 相続税における財産評価の方式としては合理性を有するものとは認めることができず採用することはできないし、本件土地に、評価通達に定める貸宅地の評価方法以外の方法によるべき 「特別の事情」のあることを認めるに足りる証拠はない。

コメント

請求人は、本件土地 (底地) の時価は、鑑定評価による価額によるべきだと主張するが、 審判所は、本件土地の賃貸借の状況について ①本件土地の賃貸借契約書がないこと ②本件土地の所有者である被相続人と賃借人とは、同族関係者の関係にあること等を勘案すれば、将来底地と借地権とが併合して、完全所有権になる可能性は高いと考えられるので、借地権を併合して完全所有とする潜在的価値が存すると認めることが困難であるとする「特別の事情」はないと判断し、評価通達に定める貸宅地の評価方法を採用した。
底地の評価においては、借地権を併合して完全所有権になる可能性があるか否かを十二分に検討する必要がある。 特に同族関係者がからむ場合は特に要注意である。