使用貸借により保育園として利用されている土地
使用貸借により保育園として利用されている土地は、利用権が著しく制限されるので、 何らかの斟酌をすべきとした事例 平成16年7月8日裁決大阪
争点
本件相続により取得した土地の価額は、自用地としての価額から借地費相当額を控除した額とすべきか否か
事実関係
本件土地は、本体相続開始時において、宗教法人Aが運営するB保育園の敷地として使用され、相続開始以降もその状況で使用されている 。
実教法人Aが、被相続人に本件土地の権利金等を支払った事実は無く、地代も建物新築以降もまた、本件相続開始後も、地代を支払った事実はない。
本件について土地の無償返還に関する届出書は、原処分庁に提出していない。
請求人の主張
本件土地の価額は、自用地としての価額から借地相当額を控除した額で評価すべきである。
本件土地については、 貸主の被相続人と借主の宗教法人Aの間において、 使用貸借契約が締結されていたものと考えられるが、土地の使用貸借に係る当事者の一方が法人である場合には、昭和48年11月1日付直資2-189直所2-76・直法2-92 「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」 (以下「使用貸借通達」という。)は、適用されず、 借地権の認定課税を基本とする法人税の取扱いに準じて取り扱われる。
宗教法人Aは、本件土地について無償返還の届出書を提出していないので、本件土地の借地権に相当する金額の認定課税が行われるべきであったが、実際には課税されないまま除斥期間も経過していることから、宗教法人Aが本件土地に建物を建築した時点で、宗教法人Aに借地権相当額の利用権が帰属したとして 扱うのが相当である
本件土地の貸借関係は、法形式上の使用貸借を仮装した地代の免除による実質上の賃貸借契約であったと認められることから、本件土地には、原始発生的な借地権が存するというべきである。
○○県○○課の指導により、 宗教法人Aから地代を収受できないなど、 公益法人の建物がある本件土地の利用は著しく制限されており、貸地と何ら変わらないから、その評価に当たっては、実務上何らかの斟酌が必要である。
原処分庁の主張
本件土地は、特殊関係のある個人間における土地の無償使用の場合と同様、自用地として評価すべきである。 本件土地は、 使用貸借の目的となっている土地と認められるところ、 一般に親子あるいは夫婦などの特殊関係がある個人間での土地の貸借は、無償で行われる場合がほとんどであり、このような場合には、当事者が相互に強い権利意識を持っているわけではないことから、その使用借権の価値は極めて小さいものである。
このような場合の課税上の取扱いは、「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」 (昭和48年11月1日付直資 2-189 ほ か2国税庁長官通達、以下「使用貸借 通達」という。)によることと、されており、 使用貸借による土地の借受け時においては、借主に対し贈与税の課税を行わない一方で、 将来、その土地を相続又は贈与により取得した場合には、その土地を自用地としての価額で評価することとされている。
宗教法人Aは、
①昭和29年6月以降、被相続人あるいは請求人が代表役員となっていること
②宗教法人Aが運営するB保育園も被相続人あるいは請求人が園長となっていることが認められる
以上のことから、被相続人と宗教法人Aとの関係は、上記で述べた親子あるいは夫婦など個人間における特殊関係と同視できるものといえる。
国税不服審判所の判断
請求人は、① 本件土地については、借地権の認定課税がないまま除斥期間が経過しているから、 借主の宗教法人Aに借地権相当額の利用権が帰属したとして扱うのが相当であり、また、②本件貸借関係は、法形式上の使用貸借を仮装した地代の免除による実質的上の賃貸借であるから、借主に原始発生的な借地権が存することになる旨主張する。
しかしながら、借主は公益法人であり、借地権の認定課税が行われることはないから、無償返還の届出書を提出していないことをもって、借主に借地権相当額の利用権が帰属するとも、原始発生的な借地権が存するともいうことはできない。
ところで、土地の貸借関係は極めて個別性が強いことから、当事者の関係、権利金や地代の有無、土地が貸借された事情や返還時期、利用状況等の事実関係等を総合勘案して、当該土地に係る利用権の実情等を判断すべきであると思料されるところ、本件土地に係る使用借権は、保育園の運営が継続される限り返還される可能性は期待できないこと等の事情を勘案すると、本件土地の貸借により土地所有者の利用権が著しく制限されていると認められ、 また、 土地所有者が本件土地を更地として利用できる可能性も極めて少ないものといえることから、本件土地については、法律上の借地権が存する場合とまではいかないまでも、評価上何らかの斟酌(しんしゃく)をするのが相当である。
そうすると、本件土地の価額は、貸し付けられている土地の価額に係る各取扱いとの権衡を勘案して算定するのが相当であり、借地権のある土地について無償返還の届出書が提出されている場合の取扱い等が適用される場合と上記事情が本件土地の価額に及ぼす影響は同程度であるというのが相当であるから、本件土地の価額は、自用地としての価額から20%控除した価額とするのが妥当である。
関係法令等
貸し付けられている土地の価額に関する取扱い
①借地権の取引
慣行のない地域にある借地権の目的となっている土地については、 評価通達 27《借地権の評価》 及び評価通達25 《貸宅地の評価》 において、借地権は評価しないが、土地の価額は自用地としての価額から20%を控除した金額により評価する
②借地権が設定されている土地について無償返還の届出書が提出されて いる場合は、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付直資2-58ほか国税庁 長官通達)の5 《「土地の無償返還に関する届出書」 が提出されている場合の 借地権の価額》 及び 8 《 「土地の無償返還に関する届出書」 が提出されている場合の貸宅地の評価》において、 借地権の価額は零とするが、土地の価額は 自用地としての価額から20%を控除した金額により、評価する
③相当の地代を収受している貸宅地については、「相当の地代を収受している貸宅地の評価 について」(昭和43年10月28日付直資3-22ほか国税庁長官通達) において、 自用地としての価額から20%を控除した金額により評価する
これらの取扱いは、建物の敷地として貸し付けられている土地の価額について、当該土地に存する借地権等の価値を認める必要がない場合であっても、現実に土地の利用が制限されているという実情を踏まえ、 自用地としての価額の20%に相当する額を利用権に相当する額とみなし、当該土地の自用地としての価額から、上記の利用権に相当する額を減額して評価することが合理的であるとして定められたものと認められる。
一方、本件土地は、借地権の取引慣行のある地域に存しているところ、本件土地に存する利用権は使用借権であることから、上記の各取扱いを、そのまま本件土地の価額の算定に当てはめることはできないものの、上記の事情によりこれらの取扱いが適用される場合に自用地としての価額から減額される当該利用権に相当する額の割合と、本件土地の利用が制限 される程度は同程度であると認められることから、本件土地において自用地としての価額から減額すべき利用権の割合は同程度とするのが相当である。
そうすると、本件土地が自用地であるとした価額から控除すべき価額は、本件土地が自用地であるとした価額の20%に相当する価額となる。