2画地の宅地として評価すべきとした事例

登記簿上,主たる建物および附属建物と記載されていても,各建物の機能・貸付の状況から判断すると,2画地の宅地として評価すべきとした事例

(平成25年10月1日裁決・名古屋・公開)

本件土地および建物の概要

①本件土地上に昭和52年に新築した本件主建物および本件附属建物が存し,本件相続開始日において,本件主建物は共同住宅で,本件附属建物は店舗付住宅である。

②本件相続開始日において本件主建物および本件附属建物はそれぞれ第三者に貸し付け中である。また本件相続開始日において,本件被相続人が10分の1,請求人が10分の9をそれぞれ所有していた。

③請求人は本件相続により本件土地および本件家屋の持分10分の1を取得した。

④本件土地の貸借関係については,本件土地の所有者であった本件被相続人と本件家屋の共有持分を有していた請求人との間で,本件土地の使用に関する賃貸借契約は締結されておらず,請求人は本件土地を本件被相続人から使用貸借により借り受けていた。

原処分庁の主張

本件土地は,次のとおり,本件主建物の敷地部分と本件附属建物の敷地部分とを区分する必要はなく、1画地の宅地として評価すべきである。

①登記簿上,本件主建物は「共同住宅」と,本件附属建物は「店舗・共同住宅」と記載されていることから,本件附属建物が効用上,本件主建物と一体のものとして利用される状態にあるとする登記がされている。

②請求人および本件被相続人は,本件家屋を共同住宅および店舗として賃貸していたことから,本件土地を1画地として利用しており,さらに請求人らは,本件相続に係る相続税の申告において,本件土地を1画地の宅地として評価している。

請求人の主張

本件家屋は,住居部分である本件主建物と店舗部分である本件附属建物とが独立して建っていた貸付用の建物2棟であることから,本件土地は,本件主建物の敷地部分と本件附属建物の敷地部分とを区分して、2画地の宅地としてそれぞれ評価すべきである。

審判所の判断

(1)法令解釈等

評価通達7-2の(1)は,宅地価額の評価については,1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位とする旨を定めているところ,課税実務上,評価通達7-2の(1)の定める「1画地の宅地」とは,その宅地を取得した者が,その宅地を使用,収益および処分をすることができる利用単位または処分単位であって,原則として,(ア宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利(原則として使用貸借による使用借権を除く。)の存在の有無により区分し,(イ)他者の権利が存在する場合には,その権利の種類および権利者の異なるごとに区分することとされている。

2画地の土地評価課税実務上,このように取り扱うのは,宅地の評価単位の判定は宅地の時価を評価するために行うものであり,時価とは客観的交換価値をいうものであることからすれば,宅地の時価を評価するためには評価対象となる宅地の価額に影響を与える全ての客観的な諸事情を考慮すべきであるから,その宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利等,その宅地の使用収益および処分に影響を与える全ての客観的な諸事情を考慮すべきことによるものと解され,当審判所においても,この取扱いは相当と認められる。

(2)認定事実

請求人ら提出資料,原処分関係資料および当審判所の調査の結果によれば,次の事実が認められる。

①本件家屋の配置等および敷地の状況

昭和51年12月29日付の本件家屋の建築工事請負契約書に添付された設計図書(配置図)によれば,本件家屋の配置等の概要は別図(略)のとおりであり,その後,増築等を行った事実は認められないことからすれば,本件相続開始日において,本件主建物と本件附属建物は別棟で接しておらず,本件主建物は共同住宅として,本件附属建物は店舗付住宅として,それぞれ独立して機能する建物であった。

②本件家屋の賃貸状況等

本件主建物は6戸の共同住宅,本件附属建物は2戸の店舗付住宅であり,それぞれ賃貸借契約に基づき,第三者に対して継続的に貸し付けられていた。そして,本件相続開始日においても,本件主建物は賃貸借契約に基づき第三者に対して貸し付けられており,本件附属建物も賃貸借契約に基づき本件主建物の賃借人とは別の第三者に対して貸し付けられていた。

(3)本件への当てはめ

①上記(1)のとおり,宅地の価額は1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)ごとに評価することとされており,その1画地の宅地の判定は,原則として,(ア宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利(原則として使用貸借による使用借権を除く)の存在の有無により区分し,(イ)他者の権利が存在する場合には,その権利の種類および権利者の異なるごとに区分して行うものと解されるところ,本件主建物および本件附属建物は別棟で接しておらず,それぞれが独立して機能する建物であったと認められ,また,本件主建物は共同住宅として,本件附属建物は店舗付住宅として,それぞれ別の第三者に貸し付けられていたものであることから,本件土地上の本件主建物および本件附属建物には,それぞれ異なる第三者の権利が存在していたものと認められる。

以上のとおり,評価通達7-2の(1)の定めによれば,本件土地については,本件主建物の敷地部分と本件附属建物の敷地部分とが別の利用の単位と認められることから,請求人らの主張のとおり別図(略)に基づき,2画地の宅地として評価するのが相当である。

②この点について、原処分庁は,(7)本件附属建物が効用上,本件主建物と一体のものとして利用される状態にあるとする登記がされていること,(1)住宅地図では,本件主建物と本件附属建物が接していること,(ウ)請求人および本件被相続人は,本件家屋を共同住宅および店舗として賃貸し,本件土地を1画地として利用しており,さらに,請求人らは,本件相続に係る相続税の申告において,本件土地を1画地の宅地として評価していることから,本件土地は1画地の宅地として評価すべきである旨主張する。

しかしながら,本件相続開始日において,本件主建物および本件附属建物は,別棟で接しておらず,それぞれ独立して機能する建物として区分して利用されていたと認められるから,(7)登記簿において「主」および「附属」の関係であること,ならびに(イ)住宅地図において本件主建物および本件附属建物が接していることは,いずれも本件土地を2画地の宅地として評価すべきとの判断に影響する事情とはいえない。また,(ウ)については,本件主建物は共同住宅として,本件附属建物は店舗付住宅として,それぞれ別の第三者に貸し付けられており,それぞれの建物の敷地として独立して利用されていたものと認められるから,1画地として利用されていたとは認められない上,請求人らが本件相続に係る相続税の申告において本件土地を1画地の宅地として評価していたとしても,そのことが直ちに1画地の宅地として評価すべき理由にならないことは明らかである。

したがって,この点に関する原処分庁の主張にはいずれも理由がない。

③上記に基づき,本件土地を2画地の宅地とし,それぞれ,10分の9を自用地,10分の1を貸家建付地として評価額を算定すると,本件土地の評価額は,本件主建物の敷地部分の評価額27,161,310円と本件附属建物の敷地部分の評価額14,192,647円の合計額である41,353,957円となる。

コメント

本件土地上に2棟の建物(本件主建物・本件附属建物)が存するが,本件土地の地目は宅地であることに争いはなく、2棟の建物の存在に対して2つに区分するか否かが争いの対象となっている。

原処分は,本件土地は2棟の建物の存在にかかわらず1画地として評価すべきであるとしているが,請求人は2画地としてそれぞれ評価すべきであるとしている。

審判所は,「本件主建物および本件附属建物は別棟で接しておらず,それぞれ独立して機能する建物」で,「本件主建物は共同住宅として,本件附属建物は店舗付住宅として,それぞれ別の第三者に貸し付けられていたものである」から,各々の建物は「それぞれ異なる第三者の権利が存在していたものと認められる」ので,本件土地は2画地の宅地として評価するのが相当であるとした。

原処分庁の主張の中で,「住宅地図では,本件主建物と本件附属建物が接している」ので本件土地を1画地として評価すべきと主張しているが,建物配置図(略)のごとく2つの建物は接しておらず,各建物は独立している。したがって,2画地としてそれぞれ評価するのが相当である。

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