相続税法上の物件調査(1)

2019年6月12日

1.不動産調査の重要性不動産調査について

(1)不動産調査の意義:

相続財産は、財産基本通達を駆使して評価を行うことになっていますので、財産評価基本通達を熟知すると共に不動産の行政法規(都市計画法・建築基準法等)の知識は不可欠です。土地の評価にあたっては、現地調査・役所調査・法務局調査などさまざまな方面からの調査が必要で、不動産の調査を誤ったり、調査不足や調査漏れがあれば、不動産の過大評価・過小評価を引き起こし、不動産の価格に大きな影響を与えると共に税額にも影響が及ぶことになり、適性を欠くことになります。時によってはなぜ適性を欠いたのか、という問いに対し、税理士の善管注意義務違反の責任を問われる場合もありますし、事務所の信用を落とすことにもつながりかねません。

不動産に関する調査の意義を十分に認識し、本書がしっかり不動産調査をするための一助になればと考えています。

 

(2)不動産調査の目的

本件における相続財産の不動産調査は、相続税における相続財産の財産評価です。相続財産は、財産基本通達に基づいて評価しますので、①不動産の売買等の重要事項説明書作成のためや②不動産鑑定業務を行うためや③不動産訴訟のためのものでもありません。あくまでも相続財産の適正な評価のための不動産調査です。

そのため、不動産調査の内容が異なってきますので、何のために調査するのか、何を重点的に調査する必要があるのかを再認識しておく必要があります。

 

(3) 不動産調査の手順

①対象不動産の確認

②資料の収集(現地調査前の情報)

③法務局調査

④役所調査

⑤現地調査

⑥評価作業

 

(4)現地調査の必要性

現地は宝の山です。現地には色々な課題が山積みであったり、すばらしい特徴があったりしますので、現地調査は資料を持参し、現地を確認する必要があります。必要な事項をメモしておきましょう。

現地の確定・確認作業は、まず不動産の現在の利用状況の確認です。

 

①対象不動産を登記簿・公図・地積測量図・建物図面・建物現況概要書等と照らし合わせ、対象不動産を確定し確認します。

②対象不動産の利用状況の確認

依頼者がいう利用状況と現況か一致しているか否か。

③建物の確認

増改築・違反建築物・既存不適格建築物ではないか、入居者は所有者か、第三者か否か 。

④隣接地の確認

となり近所がどうなっているかを確認しましょう。

 

(5)役所調査の大切さ

最近ではネットで役所調査の大半を調べ上げることができますが、役所に出向き、対面で対象不動産の調査を再確認する必要があります。念には念を入れて調査し、調査漏れを防ぐことが大切です。

役所調査で注意すべき事は、役所は質問した事にのみ答えてくれますが、それ以上の事は自分で知りたい内容を質問するなり、調査する必要があります。

自分が納得するまで確認する必要があります。なぜなら役所は縦割り行政で、他の部署の管轄事項まで踏み込んで答えてくれませんので、自分から質問する以外に問題、疑問は解決しません。

 

※役所で回る順序について

1) 都市計画(都市計画課・まちづくり推進課など)

2) 道路・下水・水道・水路(道路管理課・土木課・上下水道課・河川課など)

3) 建築(建築指導課・建築審査課など)

4) 開発(開発指導課・開発調整課など)

5) 文化財(文化財課・教育委員会など)

6) 土壌汚染(環境保全課、環境対策課など)

7) 農地・生産緑地(農業委員会、農地課など)

8) その他

 

(6)法務局調査

法務局の統廃合が進み、かつコンピューター化により、現地の管轄の法務局に出向かず とも登記事項証明書等が入手できるようになりました。又ネットを通じて情報提供する サービスを受けることができるようになりました。郵送でも入手可能です。

※法務局で入手できる資料

1)公図(地図に準ずる図面)または地図

2)登記事項証明書(土地・建物)

3)登記簿謄本(土地・建物)

4)土地所在図・地積測量図

5) 建物図面・各階平面図

6)隣接地や前面道路等の登記事項証明書

7)その他(地役権図面・閉鎖登記簿等(注1))

(注1)閉鎖登記簿は管轄法務局でしか発行しておりませんのでご注意ください。

 

(7)税理士の専門家責任とその対応

日本税理士会連合会業務対策課による「税理士業務に関する損害賠償責任(税理士の専門家責任)とその対応」によれば、『近年、専門家の業務展開をめぐっての損害賠償請求事件は増加の一途をたどり、特に税理士の業務遂行に係る事件はマスコミ等に取り上げられるなど、社会的にも注目されている。税理士に対する損害賠償事件の多くは、税理士の善管注意義務違反に基づく債務不履行を問うものである』と述べています。

たとえば、下記の判例があります。「相続税申告事務を受任した税理士Yの作成した相続税申告書に、土地の評価が過少相続財産の申告漏れ等の不備があったため、納税者が修正申告と過少申告加算税等の納付を余儀なくされたことについて、税理士の善管注意義務違反の責任が認められた。X請求額3797万6,600 円及び遅延損害金、裁判所認定額3677万6,600 円及び遅延損害金、東京地裁平成21年9月26 日判決、判例時報 2070号72頁」(『判例から学ぶ税理士損害賠償責任 相続編 一般社団法人大蔵財務協会』p298)

不動産調査においては、現地調査・役所調査・法務局調査を十分に行っていれば問題はおこらないと信じています。「面倒くさがらず、実践あるのみ」と思います。

 

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/