マンション適地と広大地判定

2019年7月9日

本件土地は第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)の地域に存するが、相続開始後本件土地上にマンションが建設されている事、さらに本件土地と同規模の土地は全てマンションを建築いている事等から勘案すると、本件土地は、マンション適地等に該当し、広大地ではないとした事例
(東裁(諸)平17第80号 平成17年12月15日裁決)

本件土地の概要
本件土地は、〇〇から約950mに位置し、その地積は3,178.83㎡である。広大地に該当しないとした事例
また、本件土地は第一種低層住居専用地域内に存する。
本件相続開始日において、本件土地の現況は〇〇である。
平成15年4月16日、請求人〇〇及び請求人〇〇は本件土地に係る持ち分のすべてを、請求人〇〇〇は、本件土地に係る持ち分の一部を〇〇に、合計額604,697,107円で売却する売買契約を締結した。
平成15年6月6日、請求人の一人は、本件土地上に建築される3階建のマンションのうち〇〇室(建物のみ)を〇〇から310,559,857円で買い受ける売買契約を締結した。
請求人らは、本件土地の価額を不動産鑑定士による本件鑑定評価書による本件鑑定評価額790,000,000円をもって本件申告をした。
2.争点
本件土地の多寡を争点とする。(本件土地は広大地に該当するか)
3.原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
(イ)本件鑑定評価額について
本件鑑定評価額は、不動産鑑定評価基準に定められた鑑定評価の手法のうち、開発法のみを採用し、取引事例比較法及び収益還元法による検証が行われておらず、不動産鑑定評価基準に準拠して算定した価額とはいえないので、本件相続開始日における本件土地の時価(客観的な交換価値)を適切に示しているとは認められない。
(ロ)本件土地の価額について
A 本件土地に係る相続税評価額を算定すると、866,207,547円(以下「原処分庁評価額」という。)となり、評価基本通達の適用については、次のとおりである。
本件土地の近隣の地域で、かつ、本件土地と容積率及び建ぺい率が同一である第一種低層住居専用地域(〇〇〇及び同〇〇の一部)は、2,000㎡以上の土地について、戸建住宅の敷地として開発された事例は、相続開始前10年間で1件もなく、すべてマンション敷地として開発されており、本件土地の面積は3,178.83㎡であるので、本件土地の最有効使用の方法は、マンション敷地であること及び現に相続開始後、本件土地上にはマンションが建設され、公共公益的施設用地の負担はないことから、本件土地は、広大地に該当せず、評価基本通達24-4(以下「改正前広大地通達」という。)の定めの適用はない。
B 相続税評価額が、相続開始時の時価を明らかに上回っているような特別の事情がない限り、評価基本通達を適用して相続財産を画一的に評価する方法には合理性があると認められるところ、原処分庁取引事例額及び本件土地売買相当額と原処分庁評価額を比較すると、上記のとおり、原処分庁取引事例額及び本件土地売買相当額のいずれもが、原処分庁評価額を上回ることから、本件土地については、評価基本通達に定められた評価方法によらないことが正当として是認される特別な事情はないので、本件土地の価額は、原処分庁評価額によるのが相当である。
4.請求人らの主張
本件土地の価額は、次のとおり本件鑑定評価額によるべきであるから、本件各更正処分の全部の取消しを求める。
(イ)本件鑑定評価額について
A 本件鑑定評価額は、不動産鑑定評価基準に準拠し、適正に算定された価額であるから、相続税法第22条に規定する時価として妥当である。
B そこで、本件鑑定評価書においては、本件土地に対して最も高い価格を提示することが可能となる使用方法(利潤が最大となる使用方法)は何かを判断するために、「戸建開発法」と「マンション開発法」を併用したところ、戸建開発法による価格は787,000,000円及びマンション開発法による価格は790,000,000円となり、両試算価格が、近い値となったことから、A土地の最有効使用を「造成分譲後、戸建住宅敷地」又は「低層分譲マンション敷地」と判定し、高いほうの金額を採用したものである。
なお、鑑定評価対象地の最有効使用をマンション敷地と判断できるのは、マンション開発法により算定した価格が、戸建開発法により算定した価格より相当高い場合である。
審判所の判断
(1)本件土地の所在する位置及び地域の状況等について
① 本件土地の所在する地域(以下「本件土地所在地域」という。)は、戸建住宅が建ち並ぶ中にマンションが混在し、駐車場、畑などの空閑地も多く見られる住宅地域である。
② 本件土地所在地域において、昭和54年以降、開発されている2,000㎡以上の土地は、すべてマンション敷地となっている。また、同じく1,000㎡から2,000㎡までの土地については、約1,000㎡の土地が1件戸建住宅の敷地となっている他は、マンション敷地となっている。
(2)評価の原則
評価基本通達に基づき評価した相続財産の価額(相続税評価額)が、相続開始時におけるその財産の時価を上回っているような特別な事情がない限り、評価基本通達に基づき評価する方法には合理性があると認められる。
そこで、本件土地の相続税評価額が、その時価を上回るか否か審理したところ、次のとおりである。
(3)本件土地の相続税評価額について
当審判所が算定した本件土地の相続税評価額は、901,500,293円であり、また、評価基本通達の適用については、下記のとおりである。
本件土地の最有効使用について判断すると、(イ)本件土地は、最寄駅の〇〇駅から〇〇駅まで各駅停車を利用して〇〇であることから、都心への接近性に優れていること、(ロ)容積率は100%であり、本件土地所在地域には、戸建住宅とマンションが混在するものの、2,000㎡以上の規模を有する土地は、マンション敷地として開発されていたこと、(ハ)現に〇〇〇は、本件土地上にマンションを建築していること、(ニ)マンション敷地としての開発は、戸建住宅の敷地としての開発に比して、開発道路等の潰れ地が発生せず、容積率を有効に活用できることから、マンション建築を計画する需要者は、所有者に対してより高い価格を提示できること、(ホ)〇〇〇のマンション事業に係る担当者の当審判所に対する答述から、〇〇〇は、本件土地にマンションを建築し、販売した場合、採算がとれるとの判断をしていたということができること等から、本件土地の最有効使用は、明らかにマンション敷地であると認められる。
(ハ)本件土地の時価について
A 本件鑑定評価額について
本件鑑定評価額は、上記のとおり、開発法のみに基づき決定されており、取引事例比較法等の他の手法から算定された比準価格等との比較考量がなされていない。
したがって、本件鑑定評価額の決定においては、不動産鑑定評価基準における手法を尽くしていないこととなる。
また、戸建開発法及びマンション開発法により求められる価格は、採用する投下資本収益率及び予想販売収入並びにこれらの金額等を基礎として見積もられた販売費及び一般管理費の割合によって、その求められる価格は異なることとなる。
したがって、採用した投下資本収益率などの数値に妥当性があるか否かを検討する意味からも、取引事例比較法等の他の手法から算定された比準価格等によって、開発法により求められた価格の検証が必要になるものと認められる。
以上のことから、本件鑑定評価額に合理性があるとは認められず、本件鑑定評価額は、本件相続開始日における適正な時価を示しているとは認められない。
C 当審判所が算定した時価について
上記から、請求人らの本件鑑定評価額及び原処分庁の本件土地売買相当額は、本件土地の本件相続開始日における時価を適正に表す金額として採用できないので、当審判所において、本件土地の時価を算定すると次のとおりである。
(A)当審判所の調査によれば、本件土地所在地域及びその周辺地域において、本件土地と規模、形状及び地域の状況等の条件が類似し、かつ、マンション敷地として取引された事例が、2件存在し、これらの取引事例は、譲渡人と譲受人との間に特別な利害関係があったとは認められないことから、これらの取引事例に係る価格は、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額(時価)であると認められる。
(B)別表6の取引事例1及び同2の取引価格について、土地価格比準表に基づき時点修正、標準化補正、地域格差及び個別格差の各補正を行うと、別表7の⑩のとおり334,077円/㎡となり、これに本件土地の地積3,178.83㎡を乗じると、本件相続開始日における本件土地の時価は1,061,973,989円と算定される。
(ニ)以上のことから、本件土地は、その相続税評価額901,500,293円(283,594円/㎡)が、相続開始時における時価1,061,973,989円(334,077円/㎡)を上回っているような特別な事情があるとは認められないので、A土地の相続税の課税価格に算入される価額は、相続税評価額によって評価することが相当であると認められる。
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コメント
本件は、請求人らは、評価基本通達により難い特別な事情があるので不動産鑑定による時価790,000,000円をもって本件土地の価額としました。原処分庁は、評価基本通達により難い特別な事情はないので、相続税評価額は866,207,547円であるとしました。
審判所は、請求人らの不動産鑑定による時価は開発法のみにより決めた価格なので、手法を尽くした価格とは言えないので、適正な時価とは認められない、又原処分庁の価額も適正な時価を示しているとは言えないので、審判所の算定した時価は1,061,973,989円である。よって本件土地の相続税評価額901,500,293円は上記時価より上回っているような特別な事情があるとは認められないので、本件土地の相続税の課税価格に算入される価額は相続税評価額によって評価するのが相当と認められると判断しました。
以上から思うことは、鑑定を入れる場合、評価手法は一つの手法ないし2つの手法で価格を決めるのではなく鑑定評価基準に準拠することが求められることです。特に相続税法上の時価を求める場合は要注意です。

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/

関連ページ:相続税法上の時価鑑定https://erea-office.com/appraisal/fair_valuation/