借地条件変更と増改築許可の関係
表記の内容についての判例がありましたので、掲載します。
何かの参考になればと思います。
借地条件変更の裁判を得た借主が、申立てと異なる規模、構造、用途の建物を建築することができるか(東京地決平5・1・25判時1456・108)
1. 判旨
借主自らが建築予定建物を提示して、財産上の給付の付随処分と共に認められた借地条件変更の裁判に基づいて、建築予定建物と規模、構造、用途の大きく異なる建物を建築することは認められない。
2. 事案の概要
借主Xと貸主Yの間に、以下の条件の本件土地の借地契約が存在する。
・契約締結日 昭和35年6月29日
・目 的 木造建物敷地に使用する
賃貸人の承諾を得ず賃借物の原状を変更しないこと
Xは、本件土地とXが所有する隣接する土地に、木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺2階建建物(以下「本件現存建物」という。)を所有している。
その後、Xは本件土地上に鉄筋又は鉄骨3階建建物(以下「建築予定建物」という。)を建築するために、借地契約の目的を非堅固建物所有から堅固建物所有へ変更する申立てを行った。その結果、昭和57年2月19日、本件借地契約について、XがYに対し金850万円を支払うことを条件として、本件借地契約の目的を堅固建物の所有を目的とするものに変更する旨の決定がなされた(以下「昭和57年決定」という。)。
この決定に基づき、同年5月19日、XはYに対し850万円を支払ったが、Xは申立時予定していた建物を建築しないまま9年以上経過した。
この度、Xは、本件土地上の本件現存建物を取り壊して、鉄骨造一部鉄筋コンクリート造7階建建物を建築する計画があることから、新たな増改築をするに当たり、Yの承諾に代わる許可の裁判を求めて、申立てをした。
これに対し、Yは、昭和57年決定によって変更された借地条件は「鉄筋又は鉄骨造3階建工場」の建築を許容したにすぎないと主張し、争った。
3. 裁判所の判断
本決定は、以下のとおり述べて、Xの増改築許可の申立てを却下した。
本件借地契約に、Xが対象として掲げる本件現存建物の増改築について貸主の承諾が必要であることを示す条項は認められない。
また、昭和57年決定は、本件借地契約の目的を「木造建物敷地に使用する」ことから「堅固建物を所有する」ことに変更したものに留まり、本件現存建物の増改築を制限する趣旨を含まないことは明らかである。
ところで、昭和57年決定は、主文にて「堅固建物の所有を目的とするものに変更する」として、堅固建物の規模、構造、用途を明示的に制限していない。
しかし、堅固建物の種類、構造を制限することは、当事者間の利益の衡平を図るため必要がある場合には付随処分の一つとして認められているところ、昭和57年決定が主文において建築建物の規模、構造、用途について何ら制限をしなかったのは、Xが申し立てた建築予定建物を認めてもYの不利益にはならず、特に制限を加える必要がなかったと判断したためであって、何らの制約も伴わず堅固建物の建築を認めた趣旨とは解されない。
そのためXが建築予定建物として提示した鉄筋又は鉄骨造3階建建物が財産上の給付額を算定する資料の一つとして斟酌され、その財産上の給付を条件とする借地条件の変更においては、建築予定建物と規模、構造、用途の大きく異なる本件計画建物あるいは、公法的規制以外の何らの制約も伴わない最有効使用の建物の建築を許容したとは解することはできない。
なお、本件のように、条件変更の裁判を得た後に当初の予定建物とは異なる建物を建築しようとする場合の解決策が問題となるが、予定建物の変更が財産上の給付額を低く抑える手段として利用された場合は別として、客観的事情の変更にもかかわらず予定の変更を認めないのでは、借地の有効利用の観点から適当ではない。
そこで、申立人が提示した建築予定建物の規模、構造、用途を借地条件の制限に準ずるものとして、借地借家法17条を類推適用することによって相手方との利益調整を図るのが実際的である。
また、新たに計画している建物が本件土地と隣接するX所有の土地にまたがっており、いわゆるまたがり建物は、借地契約の終了に伴う地上建物の収去や買取請求あるいは賃借権譲渡の場合における介入権の行使との関係で困難な問題を生じ、貸主に対して著しい不利益を与える可能性がある。YとしてはXに対し、借地の占有使用を受忍すべき義務を負うとしても、それ以上の不利益を甘受すべき義務はない。
よって、Xは本件借地契約を根拠としても、またがり建物たる本件計画建物を建築することは認められない。
借地上の建物をめぐる実務と事務 (新日本法規出版を引用)
関連ページ:相続税法上の時価鑑定(https://erea-office.com/appraisal/fair_valuation/)