宅地の評価に当たり評価単位をどう判断すべきか

5棟の共同住宅の存する本件各宅地の評価に当たり,評価単位をどのように見るべきかが争われた事例

(東裁(諸)平25第111号・平成26年4月25日裁決)

本件各土地の概要

本件甲宅地は地積1,107.23㎡の土地,本件乙宅地は地積1,180.47㎡の土地で,これらの各土地を併せて本件各宅地という。本件各宅地上に,本件A共同住宅,本件B共同住宅,本件C共同住宅,本件D共同住宅,本件E共同住宅が存し,これらの各共同住宅を併せて本件各共同住宅という。

本件各宅地は,第一種低層住居専用地域(建ぺい率40%,容積率80%)の地域に存する。

本件相続における共同相続人は,平成23年3月28日付で,本件相続に係る遺産分割協議を成立させ,請求人Mが本件甲宅地,本件A共同住宅および本件C共同住宅を取得し,請求人Nが本件乙宅地,本件B共同住宅,本件D共同住宅および本件E共同住宅を取得した。

原処分庁の主張

本件各宅地については,本件各共同住宅の敷地ごとに5区画に区分し,本件原処分庁認定A敷地ないし本件原処分庁認定E敷地をそれぞれ1画地の宅地として評価すべきである。

請求人らの主張

本件各宅地については,本件甲宅地および本件乙宅地をそれぞれ1画地の宅地として評価すべきである。

審判所の判断

宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利の存在の有無について,本件各宅地は,本件相続開始日において,宅地の所有者である本件被相続人による自由な使用収益を制約する他者の権利(具体的には,本件各共同住宅の賃借人である本件賃借会社が,本件契約に基づいて,本件各共同住宅の使用目的の範囲内において有する各敷地利用権)が存する土地(貸家建付地)であった。

評価の対象である宅地の上に存する建物(貸家)の建物賃借人の敷地利用権の及ぶ範囲について,本件契約は,本件契約書1通により本件各共同住宅5棟を一括して賃貸借契約が締結されたものではあるが,実態は,本件各共同住宅の棟ごとに締結された賃貸借契約を1通の契約書(本件契約書)としたにすぎないと認められる。

本件各共同住宅は,その外観上相互に連結した個所がないから,本件各共同住宅の各棟は,構造上全体が一体のものであるとはいえず,各棟が独立した建物であったものと認められる。
また,本件各共同住宅は,いずれも2階建ての建物であり,各階には3DKまたは3LDKの間取りの住戸部分が2戸ずつあり,住戸ごとに賃貸(転貸)の用に供することができるものであったから,本件各共同住宅の各棟は,たとえば母屋と離れのように当該各建物が一体のものとして機能していた特段の事情があるとはいえず,各棟が独立して機能している建物であったものと認められる。

以上から,本件各宅地の上に存する本件各共同住宅の賃借人である本件賃借会社の敷地利用権の及ぶ範囲は,本件各共同住宅の敷地ごとに及んでいるものと認めるのが相当である。
したがって,本件各宅地の評価単位は,本件各共同住宅の各敷地部分をそれぞれ1画地の宅地として,5区画に区分するのが相当である。

当審判所において,本件各宅地の評価単位の区分について検討したところ,次のとおりとなる。

本件各宅地については,本件相続により、請求人Mが本件甲宅地を,請求人Nが本件乙宅地を,それぞれ取得していることから,まず,①評価通達7-2により,遺産分割後の所有者単位に基づき,相続による取得者ごとに本件各宅地を本件甲宅地および本件乙宅地に区分するのが相当であり,その上で、②本件甲宅地および本件乙宅地の上にそれぞれ複数の共同住宅が存することから,本件共同住宅の敷地ごとに区分するのが相当である。

そして、請求人Mが取得した本件甲宅地の上には,本件A共同住宅および本件C共同住宅の2棟があり、請求人Nが取得した本件乙宅地の上には,本件B共同住宅,本件D共同住宅および本件E共同住宅の3棟があると認められるから,本件甲宅地は本件A共同住宅および本件C共同住宅の各敷地で2区画に区分し,本件乙宅地は本件B共同住宅,本件D共同住宅および本件E共同住宅の各敷地で3区画に区分することとなる。
請求人Mが取得した本件甲宅地(1,107.23㎡)の上には,北側道路に面して本件A共同住宅が,その南側に本件C共同住宅がある。このような各建物の配置および各建物の敷地の接道の状況からすると,
①本件A共同住宅の西側の敷地部分(いわゆる路地状部分)は本件C共同住宅の敷地とし、
②2本件A共同住宅の南側の駐車場と本件C共同住宅の北側の駐車場との間の敷地部分は中心線で区分し,それぞれ,本件A共同住宅の敷地および本件C共同住宅の敷地とみて,評価単位の区分をするのが合理的である(このように区分しても,建築基準法上の建ぺい率および積率の制限に反しない)。
そうすると,本件A共同住宅の敷地は345.15m(以下,当審判所が認定した本件A共同住宅の敷地を「本件審判所認定A敷地」という),本件C共同住宅の敷地は762.08m(以下,当審判所が認定した本件C共同住宅の敷地を「本件審判所認定C敷地」という)とするのが相当である。

請求人Nが取得した本件乙宅地(1,180.47㎡)の上には,北側道路に面して本件B共同住宅,その南側に本件D共同住宅がそれぞれあり,また,これらの東側にある本件E共同住宅は北側道路および東側道路に面している。

このような各建物の配置および各建物の敷地の接道の状況からすると,1本件B共同住宅の東側の敷地部分(いわゆる路地状部分)は本件D共同住宅の敷地とし,2本件B共同住宅の南側の駐車場と本件D共同住宅との間の敷地部分は中心線で区分し,それぞれ,本件B共同住宅の敷地および本件D共同住宅の敷地とみて、評価単位の区分をするのが合理的である(このように区分しても,建築基準法上の建ぺい率および容積率の制限に反しない)。
そうすると,本件B共同住宅の敷地は331.91㎡(以下,当審判所が認定した本件B共同住宅の敷地を「本件審判所認定B敷地」という),本件D共同住宅の敷地は418.31m(以下,当審判所が認定した本件D共同住宅の敷地を「本件審判所認定D敷地」という),本件E共同住宅の敷地は430.25m(以下,当審判所が認定した本件E共同住宅の敷地を「本件審判所認定E敷地」という)とするのが相当である。

この点,原処分庁は,本件各宅地については,本件各共同住宅の敷地ごとに5区画に区分するべきであるとするも,本件求積図に基づき区分した本件原処分庁認定A敷地ないし本件原処分庁認定E敷地をそれぞれ1画地の宅地として評価すべきである旨主張する。
しかしながら,原処分庁が主張する本件求積図に基づく区分では,本件原処分庁認定B敷地が本件甲宅地および本件乙宅地の双方にまたがることとなるが,遺産分割による取得者単位の区分(評価通達7-2(1)の注書)に反することとなるから,合理的な区分であるとはいえず,原処分庁の上記主張には理由がない。

請求人らは、①本件被相続人が本件賃借会社に対して同時期に本件各共同住宅を5棟一括で賃貸する本件契約を締結していたこと,②本件契約において敷地の使用範囲が本件各宅地の全体に及ぶ旨が定められていることからすると,本件賃借会社の敷地利用権は本件各宅地の全体に及んでおり,これに遺産分割による取得者単位の区分を踏まえて,本件甲宅地および本件乙宅地をそれぞれ1画地の宅地として評価すべきである旨主張する。

しかしながら,①本件契約は,その実態において,本件各共同住宅の棟ごとに締結された賃貸借契約を1通の契約書としたにすぎないと認められ,また,②本件各共同住宅は,構造上各棟がそれぞれ独立した建物であり,各棟が一体のものとして機能していた特段の事情があるとも認められないことからすると,本件各宅地の上に存する本件各共同住宅の賃借人である本件賃借会社の敷地利用権の及ぶ範囲は,本件各共同住宅の敷地ごとに及んでいるものと認めるのが相当である。
そうすると,本件各宅地の評価単位は,本件各共同住宅の各敷地部分をそれぞれ1画地の宅地として,5区画に区分するのが相当であるから,請求人らの上記主張には理由がない。

別紙3 原処分庁が認定した本件求積図による本件各宅地の区分(評価単位)

 

コメント

本件は,5棟の共同住宅およびその敷地を賃借人である本件賃借会社が一括借り上げした事案を、請求人Mが本件甲宅地,請求人Nが本件乙宅地を相続した。請求人Mは本件A共同住宅,本件C共同住宅,請求人Nは本件B共同住宅,本件D共同住宅,本件E共同住宅を相続した。このような状況においていかに評価単位を区分するかである。

評価通達7《土地の評価上の区分》は,土地の価額は,地目(宅地,田,畑,山林,原野,牧場,池沼,鉱泉地,雑種地)の別に評価する旨定めている。また,そのただし書きでは,一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には,その一団の土地は,そのうちの主たる地目からなるものとして,その一団の土地ごとに評価すると定めている。評価単位のとり方によって評価額に大きく影響を与えるので,相続発生日の状況を把握することが大切である。

宅地の評価については,1画地の宅地ごとに評価する旨定められている。そして,1画地とは,その宅地の利用の単位となっている宅地をいうものと解されている。

さらに,評価通達7-2《評価単位》は,土地の価額は,評価単位ごとに評価する旨定めていて,宅地は,利用の単位となっている1画地の宅地を評価単位とし,雑種地は,利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう)を評価単位とする旨定めている。

したがって,遺産分割で取得した相続人の所有者ごとに区分し,本件各宅地をそれぞれ取得した本件各共同住宅ごとに区分することにすると,整合性のとれた各区画ごとに区分されていく。