土地の最有効使用と広大地評価

2019年6月12日

当該各地域の標準的な土地の使用方法は、工場・倉庫及び事務所の敷地なので、広大地の評価を適用できないとした事例(大裁(諸)平21第69号 平成22年6月16日裁決)


1.
本件各土地の概要

(1)甲土地

広大地に該当しないとした事例甲土地の地積は、合計2,060.00㎡の一部である1,730.55㎡である。駅から約1.2kmに位置する。甲土地の前面道路の幅員は約8mの整形地で、相続開始日において、被相続人から○○に貸付けられ、同土地を3区分の上、
①東側部分(478.55㎡)は、構築物を設けて賃貸駐車場として使用している。
②中央部分(469.50㎡)には、簡易な構築物を設けて○○に貸付け事務所兼倉庫として使用している。

(2)乙土地

乙土地の地積は、1,023.00㎡。駅から1.2kmに位置する間口19.60m、奥行52.20㎡の整形地で、相続開始日において、被相続人から○○に貸し付けられていた。乙土地上には被相続人が昭和42年に工場兼倉庫として建築した鉄骨造ストレート葺平屋建て1棟が存在し、○○は、平成13年6月27日に当該建物を被相続人から取得し、相続開始日前後を通じて、同建物及びその敷地を○○○○に貸し付けている。なお、上記各賃借人は、当該土地上に建築された建物をそれぞれ工場として使用している。

(3)丙土地

丙土地の地積は、1,478.00㎡のうち持ち分147,800分の145,678。駅から約1.3kmに位置する。丙土地は、甲土地の北東に位置し、整形地である。

相続開始日において、被相続人から○○に使用貸借により貸付けられていた。丙土地上には、○○が昭和60年に建築した鉄骨造ストレート葺平屋建3棟が存在し、当該建物及びその敷地は相続開始日前後を通じて○○○に貸付けられ、上記各賃借人はそれぞれ工場等として使用している。

2.争点

当該甲、乙、丙土地は、広大地に該当するか否か。

3.請求人らの主張(甲土地・乙土地・丙土地)

本件各土地は、以下の理由により、広大地に該当する。

イ 本件各土地の所在する準工業地域及び工業地域は、周囲より住宅地化が進んでいることから、戸建住宅用地とすることが最有効利用であり、戸建住宅用地として開発するためには公共公益的施設用地の負担が必要であることから、本件各土地は広大地に該当する。

甲土地及び乙土地を含む用途地域である準工業地域に指定された地域において、1,000㎡を超える敷地の工場等は50カ所程度であり、1,000㎡以下の小規模工場は、150カ所程度存在し、また、丙土地を含む用途地域である工業地域においても1,000㎡未満の小規模敷地の工場が大半であることから、公示地(○○○、利用状況は倉庫兼事務所、以下「本件公示地1」という。)について必ずしも標準的地積のものが選定されているとは限らない。

4.原処分庁の主張

本件各土地は、以下の理由により、広大地に該当しない。

イ 本件各土地の周辺地域においては、戸建住宅が散見される程度であり、また、平成16年以降宅地化が進んでいる事実も認められないことから、本件各土地の物理的な有効利用が戸建住宅用地であるとは認められないので、請求人らの主張には理由がない。

(甲土地及び乙土地)

甲土地及び乙土地の近傍に位置している本件公示地1の地積である1,499㎡がその地域における標準的な宅地の地積である。甲土地及び乙土地は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地であるとはいえないことから、広大地には該当しない。

(丙土地)

丙土地については本件公示地1の用途地域と丙土地の用途地域とでは、建ぺい率及び容積率が同一であること、建築できる用途の建物が大部分において同じであること、本件公示地1の近傍に位置していることからすると、本件公示地1の地積である1,499㎡がその地域における標準的な宅地の地積であると認められる。

したがって、丙土地は、広大地には該当しない。

5.審判所の判断(甲土地・乙土地・丙土地)

イ 本件各土地の広大地該当性

(イ)甲土地及び乙土地の最有効使用方法等について

A 本件南地域の宅地の標準的な使用方法

本件南地域は、準工業地域として、工場、倉庫及び事務所などの敷地の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域である。また、甲土地を含む○○○において、平成10年以降、新たに工場2画地、倉庫2画地が、乙土地を含む○○○において平成8年に事務所1画地、平成12年に工場1画地が建築されるなど、工場、倉庫及び事務所のニーズが認められ、当該用途は、本件南地域の標準的な使用方法であると認めるのが相当である。

B 甲土地の最有効使用の方法

甲土地は、本件相続の開始時点で簡易な構築物の敷地及び駐車場として供用されているが、甲土地が所在する本件南地域においては、上記のとおり標準的な使用方法が工場、倉庫及び事務所の敷地であることが認められる。したがって、甲土地における、最有効使用の方法は、開発行為を行って戸建住宅の敷地として利用するのではなく、標準的な使用方法である工場、倉庫及び事務所の敷地として利用することであると認めるのが相当である。

そうすると、甲土地は、評価時点において、必ずしも最有効使用がされているとはいえないものの、開発行為を行って戸建住宅地として利用することをもって最有効使用であるということもできないから、この点で、公共公益的施設用地の負担は問題になりえず、また、評価時点における甲土地の属する本件南地域の標準的使用の状況に照らし、甲土地を分割することなく一体として工場、倉庫及び事務所の敷地として利用することが最有効使用であると認められ、この場合には上記のとおり、公共公益的施設用地の負担は必要ないと考えられ、広大地には該当しないというべきである。

C 乙土地の最有効使用の方法

乙土地が所在する本件南地域は、上記のとおり標準的な使用方法が工場、倉庫及び事務所の敷地であることが認められ、乙土地は、本件相続の開始時点で工場の敷地として既に利用されており、乙土地は、その地域における標準的使用がなされ、最有効使用されていると認められることから、評価に当たって公共公益的施設用地の負担を考慮する必要がなく、広大地には該当しない。

(ニ)丙土地の最有効使用方法等について

A 本件中地域の宅地の標準的な使用方法

上記のとおり、本件中地域は、工業地域として、○○○を除く当該地域の大部分を工場及び倉庫の敷地が占め、その他事務所の敷地も散見されるひとまとまりの地域で、工場、倉庫及び事務所の敷地の状況は、別紙8のとおりである。したがって、本件中地域の標準的な使用方法は、工場、倉庫及び事務所の敷地であると認めるのが相当である。

また、本件中地域では、戸建住宅の建築状況をみると、○○○では平成16年に1画地、○○○では平成11年から平成17年にかけて6画地の存在が確認できるにとどまっていることから、本件中地域での住宅地化が進展しているとは認められない。

B 丙土地の最有効使用方法

丙土地が所在する本件中地域は、上記のとおり標準的な使用方法が工場、倉庫及び事務所の敷地であることが認められ、丙土地は、本件相続の開始時点で工場等の敷地であり、本件中地域の標準的な使用方法がなされている土地との状況に差はなく、丙土地は、その地域における標準的使用がなされていることから、最有効使用されていると認められる。したがって、評価に当たって公共公益的施設用地の負担を考慮する必要がなく、広大地には該当しない。

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コメント

広大地であることの要件のうち、その地域が住宅地化が進んでいることを立証することが大切ですが、本件裁決事例の中の「本件各土地周辺の開発許可の状況について」の項目に下記の記載がありました。

イ.本件各土地の周辺の開発許可の状況について

本件各土地周辺のうち、(中略)平成14年1月1日から平成19年12月31日における都市計画法第29条に基づく開発許可を要する土地開発許可は9件あり、その内訳は、①工場、倉庫及び事務所の開発を目的としているものは、平成14年に2件(中略)、平成17年に1件(中略)、平成18年に2件(中略)の合計5件あり、②マンションの開発を目的としているものは、平成18年に2件(中略)、③戸建住宅の開発を目的としているものは、平成17年に1件(中略)、平成18年に1件(中略)の合計2件である。

(中略)

B 甲土地の最有効使用の方法

(略)したがって、甲土地における、最有効使用の方法は、開発行為等を行って戸建住宅の敷地として利用するのではなく、標準的な使用方法である工場、倉庫及び事務所の敷地として利用することであると認めるのが相当である。(略)また、評価時点における甲土地の属する本件南地域の標準的使用の状況等に照らし、甲土地を分割することなく一体として工場、倉庫及び事務所の敷地として利用することが最有効使用であると認められ、この場合には、(中略)公共公益的施設用地の負担は必要ないと考えられ、広大地には該当しないというべきである。

上記の裁決事例のポイントは、「その地域」の開発事例が以下に示すように9件あることです。

工場、倉庫、事務所の開発事例:5件

(平成14年:2件、平成17年:1件、平成18年:2件)

マンションの開発事例:2件(平成18年)

戸建住宅の開発事例:2件(平成17年:1件、平成18年:1件)

工場等の開発事例がマンションや戸建て住宅の件数の2.5倍あるということは、その地域が工場用地であることを数字が証明しています。また、この動きから、その地域は戸建やマンションよりも工場や倉庫、事務所への敷地に動いていることがわかります。このように、開発事例による開発許可状況の分析結果が、広大地判定を決めるウエートが高いと考えてください。上記の論理を広大地の要件に当てはめれば、広大地は否認されることがわかります。

厳しいようですが、争う前に開発事例に関する調査は完了すべきです。争うのであれば、争いに耐えうる資料が必要です。しかし、争うために相続税の申告をするわけではありません。しっかり調査をすれば、争いはなくなると信じています。

謙虚に素直に、現場、その周辺の状況、開発事例の分析を行なえば、ある程度の予測はたつと思われます。是非とも、初心に帰り、市役所や現地の調査をしましょう。

 

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/