訴訟上の和解の1年後に増額する理由がないとされた事例

2019年4月26日

判例タイムズ 855号判例タイムズ No.855によれば、東京都区内の木造2階建居宅(延44.88㎡)の賃料が訴訟上の和解により1か月6万円と定められ、その1年後にこれを増額すべき理由がないとされました。(東京地裁平五(7)第8092号建物賃料改定請求事件)

「※争点に対する判断
2 次に、本件建物の敷地の固定資産税については、本件全証拠によっても具体的な増加の程度が明らかでない上(なお、最近において地価が下落傾向にあることは、公知の事実である。)、敷地の公租の増額を地上建物の賃借人がどの程度負担すべきかについても問題があるから、右増加が直ちに本件建物の賃料を増額すべき理由となるものではない(本件建物自体の固定資産税増額の事実は認められない。)。

3 本件建物の賃貸借関係は、被告の先代を含め約50年間に及んでいるのであり、このように長年にわたって当事者間の合意により形成されてきた賃料額及びその形成過程は、将来における賃料改定に当たっても十分考慮されるべきものであり、原告らとしても、賃借人の存在を知った上でこれを買い受けたものであるから、従前の賃料額の形成過程を尊重すべきものである。

ところで、最近における本件建物の賃料月額の推移をみると、昭和62年ころ以降が三万円、平成元年九月分以降が六万円と、原告らが本件建物を取得する直前と比較すると、三、四年の間に倍額になっているのみならず、原告らが本件において増額を求めている時期は、前回の増額の時期からわずか1年経過後にすぎないのであって、賃料上昇の程度が従前に比べて甚だしくなっていることが認められる。

4 右3の点に加えて、本件建物が老朽化してきていることをも考え合わせると、前記近隣建物の賃料額に比較して本件建物の賃料額が低廉であるからといって、現時点において改定を要するほど本件建物の賃料額が相当性を欠くに至っているとまでは認め難い。よって、賃料増額自由の存在は認められない。」

(判例タイムズ No.855(1994.11.1)

 

※私も昨年上記と同じような内容の案件について依頼を受けて賃借人側(被告)の鑑定をしました。

賃料の改定について合意があって2~3年で賃料の増額の争いが絶えず、争いが本格化しました。

原告側の鑑定書には賃料改定の理由に無理が多くありました。

鑑定をするにあたり、無理をして賃料を出していきますと、色々と矛盾点が多くでてきます。

すると求めた賃料が信憑性が乏しくなってきますので、問題点を突くことが可能になってきます。

このようなことにならないように注意したいと思います。