農地法5条の許可と宅地比率方式

2019年6月11日

ゴルフ場の写真

本件土地は、ゴルフ練習場敷地の一部として本件会社に貸し付けられているが、本件会社が造成工事を行っている場合の土地評価について争いになった事例

(東裁(諸)平20第75号 平成20年11月13日裁決)

1.本件土地の概要

本件被相続人の相続財産のうち下記本件A土地と本件B土地を併せて本件各土地という農地法5条の許可と宅地比準方式

(1)本件A土地…地積1,867㎡、地目は畑(現況雑種地)、市街化調整区域に位置する。

■■■道路の北西側約27.25mの距離に位置する無道路地で、ほぼ正方形の土地である。その中央部分には、ゴルフ練習場のネットが設置されている。

(2)本件B土地…地積2,572㎡、地目は畑(現況雑種地)、市街化調整区域に位置する。

南西側で本件B土地接面道路にほぼ等高に接面する、間口約50.5m、奥行約50.9mの北西側が突起したやや不整形な土地で、ゴルフ練習場のクラブハウス、練習打席及び駐車場の敷地として利用されている。

(3)本件各土地について

(イ)使用状況

本件各土地は、本件会社が所有する下記本件C土地、本件D土地(以下両土地を併せて本件会社所有地という)などとともに、同社が経営するゴルフ練習場の敷地(以下本件ゴルフ練習場敷地という)の一部として使用されている。

①本件C土地…地積199㎡、地目雑種地、(現況雑種地)、市街化調整区域

②本件D土地…地積99㎡、地目雑種地(現況雑種地)、市街化調整区域

(ロ)行政庁の許可

A 本件各土地に係る農地の転用のための権利移動について、■■■は、農地法第5条第1項の規定により、■■■付で用途を「ゴルフ練習場」、権利移動の種類を「賃借権設定」のとおりとする旨の許可をした。

B 本件ゴルフ練習場敷地における開発行為について、■■■は、本件会社に対し、■■■■■付で許可をした。

(ハ)本件被相続人と本件会社との間の賃貸借契約

A 平成4年4月1日付で貸主を本件被相続人、借主を本件会社とするゴルフ練習場を目的とした賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結されており、賃貸借の期間は、平成4年4月1日より平成24年3月31日までとし、その後は貸主と借主の話し合いの上契約を更新することもできるとされている。

(4)本件会社等について

■■■■(以下「本件会社」という。)は、ゴルフ練習場を経営しており、本件相続開始日直前、発行済株式(200株)のうち本件被相続人及び請求人■■がそれぞれ20株を所有していた同族会社である(以下、本件会社の株式を「本件株式」という。)。

2.争点

本件各土地は、本件会社に貸し付けられ、同社において造成工事を行った上でゴルフ練習場の敷地として利用されている土地なので、造成前の地目により評価すべきか否か

3.請求人らの主張

イ 本件各土地の評価について

評価通達86の注書によれば、賃借人がその雑種地の造成を行っている場合における賃借権の目的となっている雑種地の評価は、その造成が行われていないものとして同通達82の定めにより評価した価額を基礎として行う旨定めているところ、本件各土地は、本件会社へ貸し付けられ、同社において造成工事を行った上でゴルフ練習場の敷地として利用されている土地であるから、造成前の地目により評価すべきである。

すると、本件各土地は、造成前の地目は畑であり、また、倍率方式で評価する地域に所在することから、付近の畑の固定資産税評価額に相続税評価倍率を乗じて評価すべきであり、その価額は、別表3の1及び2のとおりとなる。

4.原処分庁

イ 本件各土地の評価について

(イ)本件相続開始日における本件各土地の現況は、ゴルフ練習場の用に貸し付けられ、かつ、同用途に供されている。また、市街化調整区域内に所在するものの市街化区域に隣接しており、付近には宅地として利用されているものが少なくない。加えて、本件各土地は、農地法第5条第1項に基づく転用許可を得ていること及び開発許可を受けた区域内にあることからすれば、本件各土地を評価するに際しては、宅地であるとした場合の価額を基礎として評価すべきであり、その価額は、本件B土地接面道路の固定資産税の路線価を基に算定し、別表3の1及び2のとおりとなる。

5.審判所の判断

(1)認定事実

イ 本件ゴルフ練習場

(イ)本件ゴルフ練習場敷地は、市街化調整区域に所在しているが、その東南側で接面する■■■■(以下「■■道路」という。)の反対側は市街化区域で、戸建住宅用地となっている。

(ロ)本件会社は、その所有する本件会社所有地のほか、本件各土地及び別表6の各土地を賃借して、これらを一体として本件ゴルフ練習場敷地としている。

別表6の各土地の賃貸借契約及び本件各土地の本件賃貸借契約については、それぞれ無償返還届出書が、平成5年5月24日、原処分庁へ提出されており、①権利金の授受は認められず、②賃借権設定の登記もない。

(ハ)ゴルフ練習場の敷地に供するための造成工事は、本件会社が行っており、当該造成工事前において、本件A土地は、東側から西側に向って傾斜度3度超から5度程度の傾斜地、本件B土地は、東側から西側に向って傾斜度3度以下の緩やかな傾斜地であったと認められる。

(ニ)本件ゴルフ練習場敷地には、鉄筋コンクリート造りのクラブハウス、鉄骨造りの練習打席、ネット設備、夜間照明設備及び駐車場設備などが設置されている。

(2)本件各土地の評価について

評価通達86は、貸し付けられている雑種地は、雑種地の自用地価額から同通達87に定める賃借権の価額を控除した金額によって評価するとしている。

本件各土地は、本件相続開始日において、本件会社が本件ゴルフ練習場敷地の一部とするために賃借し、本件会社が本件ゴルフ練習場施設を設置して利用されていることから、貸し付けられている雑種地として評価通達86により評価することとなる。

そして、本件各土地については、本件会社がゴルフ練習場の敷地に供するための造成工事を行っていることから、評価通達86の注書の定めにより、造成工事が行われていないものとした場合の状況の類似する土地の比準価額から賃借権の価額を控除して評価することとなる。

ところで、評価通達86の注書の適用に当たって、本件各土地と状況が類似する付近の土地は、請求人らは本件会社が造成工事を行う前の地目である畑とすべき旨主張するのに対し、原処分庁は、課税時期における周囲の状況から宅地とすべき旨主張するので審理したところ、次のとおりである。

イ 本件への適用

本件各土地は、市街化調整区域内に存するものの、本件各土地がその一部となっている本件ゴルフ練習場敷地が接面する■■■道路の反対側は市街化区域で、戸建住宅用地となっている。

しかも、本件各土地は、本件ゴルフ練習場敷地の一部とするため、ゴルフ練習場を用途とした農地転用及び権利移動の許可を受け、ゴルフ練習場とするための開発許可を受けた土地であることから、ゴルフ練習場に用いるために賃貸できる土地である。

加えて、評価通達36-4は、市街化区域外にある農地であっても、農地法第5条による転用及び権利移動の許可を受けた場合は市街地農地とし、同通達40により宅地比準方式により評価することとしていることとの均衡からしても、その比準する状況の類似する土地は宅地とするのが相当である。

この点に関し、請求人らは、造成工事を行う前の本件各土地の地目である畑として評価すべき旨主張するが、評価通達86の注書は、上記イのとおり、造成前の地目の価額に比準して評価する旨を定めたものではなく、評価時点の評価対象地と状況が類似する付近の土地に比準して評価する旨を定めたものであり、本件各土地と状況が類似する付近の土地の地目は宅地とするのが相当であるから、請求人らの主張は採用できない

コメント

本件土地は、市街化調整区域内に存するが、市街化区域に隣接する土地で、ゴルフ練習場をつくるために農地転用及び権利移転の許可をとり、ゴルフ練習場のための開発許可を取得した土地である。本件被相続人及び請求人■■■が同族法人に貸し付けた土地は、市街化区域に隣接すると共にその周囲は戸建住宅用地である。さらに農地法第5条による転用及び権利移動を受けた土地である。かかる内容を踏まえて本件土地の判定並びに相続税評価額を算定することになります。本件においては、本件A土地、本件B土地の請求人らと審判所の相続税評価額の算定の過程を詳細に掲載致しました。参考にして頂ければ幸いです。

関連ページ:ゴルフ場の鑑定(https://erea-office.com/appraisal/golf_course/