土地の価額の評価にあたり特別の事情があるか否か。
本件土地の価額の評価について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか否か。
(平成25年7月5日裁決・公開・東京)
1. 事例の概要
(1) 本件土地の概要
本件土地は幅員約36mの幹線道路(以下 本件正面道路という)と幅員約6mの道路(以下 本件裏面道路という)に接面する地積2,873.89㎡の土地である。
本件正面道路に沿接する地域はほぼ平坦で、マンション、店舗兼共同住宅、店舗又は事務所等の用に供されている建物が連たんしている。
近隣商業地域(建ぺい率80%、容積率300%)に属している。
本件土地には、P社による送電線路の架設等を目的とする地役権(以下 本件地役権という)が設定され、P社が敷設した使用電圧275,000ボルトの特別高圧線が架設され、建造物の築造が禁止されている
。
本件土地は、L鉄道及びM鉄道の各駅から約300m。N鉄道の駅から約500mに位置する。
(2) 事案の概要等
本件は、請求人らが、請求人Eが相続により取得した宅地について、財産評価基本通達の定めによらず、不動産鑑定士による鑑定評価額により評価した価額に基づいて相続税の申告をしたのに対し、原処分庁が、当該宅地の価額は評価基本通達の定めにより評価した価額とすべきであるとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、請求人らが当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。
2. 裁決の要旨
(1) 原処分庁の主張
(イ) 本件土地の更地の価額を評価基本通達の定めにより評価した原処分庁主張額は、以下のとおり、本件相続開始日における客観的交換価値を上回っているとは認められないから、本件土地の価額の評価について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はない。
したがって、本件土地の価額は、原処分庁主張額に基づき評価すべきである。
A
本件土地付近の基準地「a市〇-〇」(以下「本件基準地」という。)の価格は、平成21年7月1日時点よりも平成22年7月1日時点の方が低くなっており、両時点の間における本件土地付近の土地の価格は上昇傾向にはないものといえる。
B
上記Aからすると、本件土地について、本件相続開始日における客観的交換価値は、原処分庁鑑定評価書によって算定された本件土地の更地としての平成22年6月25日時点の価額である原処分庁鑑定評価額を下回ってはいないと認められるから、原処分庁鑑定評価額を下回る原処分庁主張額は、本件相続開始日における客観的交換価値を上回ってはいない。
(2) 請求人らの主張
(イ) 請求人ら鑑定評価額は、以下のとおり、本件相続開始日における本件土地の更地としての時価であり、当該価額は原処分庁主張額を下回るから、本件土地の価額の評価について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある。
したがって、本件土地の価額は、請求人ら鑑定評価額に基づき評価すべきである。
A
請求人ら鑑定評価書では、近隣地域の標準的使用及び本件土地の個別性、将来の動向等から本件土地の最有効使用を中層共同住宅地と判定した上で、開発法による価格を重視し、比準価格を比較考量の上、収益価格を参考、公的価格を規準とした価格にも留意して、請求人ら鑑定評価額を適正に決定している。
B
請求人ら鑑定評価額は、一般的な画地と比較して①画地規模が大きいこと、②敷地内に一部高圧線下地があること及び③日影規制が厳しく基準容積率の消化が一部困難であることといった特異性がある本件土地について、主たる需要者であるマンション分譲業者等の観点を踏まえ、これら①ないし③の諸要因を適正に考慮したものである。
(3) 審判所の判断
検討
相続により取得した財産の価額は、上記イのとおり、評価基本通達の定めによらないことが正当として是認されるような特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定められた評価方法により評価した価額によることが相当である。
請求人らは、請求人ら鑑定評価書による請求人ら鑑定評価額が本件相続開始日における本件土地の更地としての時価であり、当該価額が評価基本通達の定めにより評価した価額を下回るとして、評価基本通達の定めによらないことが正当として是認される特別の事情がある旨主張していることから、以下、請求人ら鑑定評価額等について順次検討する。
A 本件規模格差による減価について
(A) 本件土地は、本件土地を分譲マンション用地として開発した場合、高圧線下地部分や公的規制(日影規制等)等による制限を受けるが、請求人ら鑑定評価書及び原処分庁鑑定評価書でも想定されているように、マンションが建築できない部分に、分譲戸数の半分以上の車両が駐車可能な駐車場施設(機械式2層又は3層)の設置が可能であるなど、当該部分を有効に活用することができることが認められ、一体利用することが合理的と認められる場合に当たるから、地積過大による減価を行う必要性は認められない。
(B) また、上記の点をおくとしても、請求人ら鑑定評価書では、本件土地について、規模が大きいことに伴う市場参加者限定の程度を考慮して、本件規模格差(40%)による減価を行っているところ、本件土地は、間口が広く二方が道路に面しており、幅員の広い本件正面道路の北西側に位置しているため、日照・通風性に優れており、最寄り駅への接近性及び都心部への交通利便性にも優れ、徒歩圏内の商業施設、業務施設等が充実していることなどから、生活環境の面における希少性が高いことが認められ、本件土地は、同一需給圏内の他の土地と比べても、主な需要者であるマンション開発業者等の需要は多いものと考えられるから、市場参加者が限定される理由に乏しく、本件土地には、規模が大きいことに伴う市場参加者限定の程度を考慮する必要性は認められない。
(C) 以上のとおり、本件土地には、本件規模格差による減価の必要性は認められない。
B 開発法による価格
(A) 請求人ら鑑定評価書における比準価格及び規準価格については、上記のとおり、本件規模格差による減価を加味すべきではないから、これを除いたところで各価格を計算すると、比準価格は約663,000,000円、規準価格は約632,000,000円となり、請求人ら鑑定評価書における開発法による価格(387,000,000円)は、これらの価格から大きく乖離していることが認められる。
(B) そうすると、請求人ら鑑定評価書における開発法による価格は、合理的に試算された価格として採用することはできない。
C 評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情の有無
請求人ら鑑定評価額は、開発法による価格を重視し、比準価格を比較考量して決定されている(別紙2の5)ところ、いずれの試算価格も合理性が認められないことから、請求人ら鑑定評価額は、本件相続開始日における本件土地の客観的交換価値を表しているとは認められず、他に評価基本通達の定めにより評価した価額が本件土地の時価を上回るとする事実も認められないことからすると、本件土地の価額について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないといえる。
したがって、本件土地の価額は、評価基本通達に定められた評価方法により評価することが相当である
2. コメント
本件土地は下記のような特長のある土地である。
① 駅近に存すること(駅から300~500m)
② 2,873.89㎡という規模の大きな土地であること
③ 近隣商業地域(容積率300%に存すること)
④ マンション、店舗兼共同住宅、店舗又は事務所等が周辺に存する地域であること
⑤ 本件土地には275,000ボルトという送電線路のための地役権が設定され、建造物の築造が禁止されたエリアであること
以上の内容から①本件土地の最有効使用は何か
②本件土地がたとえばマンションが最有効使用とした場合、地役権が設定されていない場合のマンションの延床面積がたとえば8,600㎡まで建築可能になれば、地役権が付設されることによる建築制限があって20%減の延床面積6,900㎡までしか建築できないとしたら、その時の上限の8,600㎡(賃貸面積X㎡ 賃貸戸数Y室)の時の賃料収入と下限6,900㎡(賃貸面積 Z㎡ 賃貸戸数A室)の時の賃料収入の差がこの土地の減価ととらえられないかと考えてみるのも一つの考え方である。