不動産の交換にからんで争いになった裁決事例

2019年7月9日

不動産の交換地方公共団体との交換により取得した資産について、棚卸資産ではなく、所得税法第58条第1項に規定する取得資産に該当するとした裁決事例

昭和54年11月7日裁決(公開)

《裁決要旨》

交換により請求人が取得した土地は、交換の相手方である地方公共団体が公共的施設の建設用地に充てることを予定していたもので、他に売却することを目的とすることなく所有していた固定資産であり、かつ、請求人らは当該取得土地を譲渡資産の直前の用途と同一の用途に供していることから、当該取得土地が棚卸資産に該当するとして、所得税法第58条第1項の交換の特例がないとした原処分庁の認定は失当である。

1)あらまし

請求人所有のA土地とB県所有のB土地を等価な交換(以下本件交換という)をした。

A土地 : B市D町1507番 山林
(請求人所有) 現況宅地,実測面積214.50㎡

B土地 : B市D町3番の山林
(B県所有)  現況宅地,実測面積165.00㎡

審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和52年分所得税の確定申告書に、分離長期譲渡所得の金額を零円、納付すべき税額を零円と記載して法定期限内に申告したところ、原処分庁は、昭和53年9月7日付で、分離長期譲渡所得の金額を6,264,783円、納付すべき税額を1,188,800円とする更正及び過少申告加算税を59,700円とする賦課決定処分をした。

請求人は、これに対し同年10月24日に異議申し立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月27日付で棄却の異議決定をした。請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして審査請求に及んだ。

2)請求人の主張

次の理由により、原処分の全部取り消しを求める。

イ 請求人は、昭和52年12月7日、A県との間で、本件譲渡土地(註1)と本件取得土地(註2)とを等価な交換(以下本件交換という)する契約を締結し、同日相互に交換物件の引き渡しを了した。
註1.本件譲渡土地(請求人所有)
B市D町1507番の山林
現況宅地 実測50㎡
註2.本件取得土地(A県所有)
B市D町3号の山林
現況宅地 165.00㎡

ロ 請求人としては、本件取得土地を本件譲渡直前の用途と同一の用途に供したものであり、従って本件交換は所得税法第58条第1項に規定する交換に該当する。
よって、本件譲渡土地の全部につき固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例の規定を適用し、譲渡所得の金額の計算上は譲渡がなかったものとすべきである。

ハ 請求人が提出した昭和52年分の所得税の確定申告書(以下確定申告書という)の特例適用条文の記入欄に、租税特別措置法(以下措置法という)第33条の2と記載したのは、本来所得税法第58条と記載すべきであったものを請求人が法律に対する知識に乏しく、かつ本件譲渡土地がA県の公共事業のために買収されたことなどから、措置法第33条の2に規定する交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例の適用があるものと誤解し、適用各文の記載を誤ったことによるものである。

3)原処分庁の主張

次の理由により、原処分は正当である。

イ 請求人が本件交換による譲渡所得の計算上、所得税法第58条第1項の規定の適用を受けるには、同条第3項により確定申告書に、同条第1項の規定の適用を受ける旨並びに本件譲渡土地及び取得土地の種類、数量、用途等、所得税法施行規則第37条に定める事項を記載することがその要件とされている。
しかしながら、請求人の提出した確定申告書の特例適用条文欄には、「所得税法第58条第1項」との記載はなく、「措置法33の2」と記載されており、かつ「所得税法第58条第1項」の記載がなかったことについてやむを得ない事情(以下所得税法第58女第4項のやむを得ない事情という)も認められないので、同条第1項を適用する余地はない。

ロ 請求人がA県から本件交換により取得した本件取得土地は、A県企業局が他に売却するために予め取得し、用地買収の相手方に対する交換用地として保有していた土地であるから、当該土地は所得税法の適用上は固定資産には該当しないものというべきである。
したがって、本件譲渡土地は固定資産と交換されたものではないこととなり、所得税法第58条第1項の特例を適用することはできないものである。

4)審判所の判断

請求人は、①A県との間で昭和52年12月7日に請求人所有の本件譲渡土地とA県所有の本件取得土地とを等価で交換したこと、②昭和52年分所得税の確定申告書に本件交換による譲渡所得の計算上、措置法第33条の2の規定の適用を受ける旨を記載し、所得税法第58条第1項の規定の適用を受ける旨の記載はしなかったことについて、双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

(1)所得税法第58条第1項の特例の適用があるか否かについて

イ 請求人は、以前から所有する本件譲渡土地につき、昭和50年5月28日に所有権保存登記をしたが、本件交換当時、本件譲渡土地の登記簿上の地目には山林となっていたものの現況は宅地であったこと。

ロ A県は、母子保健センターの建設事業を開始する前における建設用地の調査において、請求人の所有する本件譲渡土地が未買収のままであることを確認したが、A県の行政施策上緊急を要する事業所であり、かつ、時間的余裕もなかったので、都市計画法あるいは土地収用法による事業認定を受けることなく本件譲渡土地の買収手続きに入ったところ、請求人がA県の所有する土地との等価交換を強く要求したので、A県としてはやむを得ず、上記公共的施設の建設のための用地に充てることが決定されていた老人ホーム用地の一部から、計画を変更して交換用地としての本件取得資産を分離して、請求人と等価交換したこと。

ハ 本件交換当時の本件取得土地の登記簿上の地目は山林であったが、現況は宅地であり、請求人は取得後も宅地としてこれを保有していること。

以上の認定事実によれば、本件交換当時の本件取得土地は、A県が他に販売することを目的とすることなく所有していた固定資産であり、かつ本件取得土地は本件譲渡土地の直前の用途と同一用途に供されたものであるということができる。

そうすると、本件取得土地が固定資産には該当せず、所得税法第58条第1項の特例の適用はないとした原処分庁の判断は失当といわなければならない。

(2)本件確定申告書の記載について所得税法第58条第4項所定の「やむを得ない事情」が認められるか否かについて

イ ①請求人は、A県の担当職員から、本件交換にかかる譲渡所得については所得税の課税はない旨を聞かされていること。

②本件交換に係る譲渡所得についての確定申告書を作成するに当たり、請求人の関係する団体事務員と相談のうえ同申告書の第二面の特例適用条文の記載欄に同条文を「措置法33の2」と記入し、これが誤っていることに気付かずに原処分庁に提出したが、同欄に特例の適用を受ける旨の何らかの記載さえあれば課税の対象とはされないものと信じていたこと。

ロ ①本件交換はA県が施行する公共事業のため必要であるとの県側の強い要望により等価交換を行ったものであるから、課税対象となるべき譲渡益は生じていないと請求人は申し述べた。

ハ 請求人が提出した確定申告書には、譲渡所得の計算明細書や交換契約書の写し等の付属書類がすべて添付されていること。

①以上の認定事実に照して本件を見ると、請求人は、本件交換にかかる譲渡所得について、確定申告書の特例適用条文欄に「所得税法第58条第1項」と記載していないけれども、「措置法33の2」と特例適用条文を記載したことにより、非課税既定の適用を受けるための申告手続きとしては十分であり、税法上の特例の適用を当然に受けることができるものと誤って信じていたことが認められる。

②このことは、税法についての知識が乏しい請求人としては無理からぬところでもあり、またそう信じたことについて、原処分庁による納税相談の機会を利用しなかったことなど請求人としても反省すべき点もある。

③一方確定申告書の作成について相談した団体事務員の税法に関する知識を過信した請求人のみにその責任を負わせるのもいささか酷であると考えられる本件においては、所得税法第58条第4項のやむを得ない事情があったものと認めるのが相当である。

(3)そうすると、本件交換にかかる譲渡所得の計算上、所得税法第58条の規定の適用はないものとされた原処分は失当であるから、その全部取り消しを免れる。

 

関連ページ:相続税法上の時価鑑定(https://erea-office.com/appraisal/fair_valuation/)