相続税法上の時価
不動産鑑定士が相続税法上の時価を求めるにあたっては、相続税法、評価基本通達等を十二分に理解していないと、依頼者にご迷惑をおかけすることになります。
その典型的な裁決事例がありましたので、掲載します。
裁決要旨
請求人らは、相続により取得した各土地(本件各土地)について不動産鑑定士が作成した不動産評価報告書(本件報告書)記載の評価額(本件評価額)は不動産鑑定評価基準(鑑定基準)に基づくものであるから、本件評価額は本件各土地の客観的な交換価値と認められるものである旨主張する。
しかしながら、本件報告書の評価(本件各土地鑑定士評価)においては、①開発法のみにより評価額を算定しており、
取引事例比較法等の他の手法から算定された試算価格に基づく価格となっていないこと、
②本件各土地の一部の土地について財産評価基本通達26≪貸家建付地の評価≫を適用して評価しているが鑑定基準において同様の手法をとるべきことは定められておらず鑑定基準に従っているとはいえないこと、
また、③別の土地については租税特別措置法第69条の4≪小規模宅地等についての相続税の課税の計算の特例≫第1項の規定に該当するとして評価額を減額していることなどから、本件各土地鑑定士評価は鑑定基準に従っているものとはいえない。さらに、本件報告書を作成した不動産鑑定士は請求人の親族であることなどを併せ考慮すると、本件各土地鑑定士評価は合理性に疑いがある。
したがって、財産評価基本通達に基づき本件各土地を評価した価額(本件各土地通達評価額)が本件各土地鑑定士評価による本件各土地の評価額を上回るとしても、そのことが本件各土地通達評価額が本件各土地の客観的交換価値を適正に評価したとの推認を覆す事情とはならず、そして、その他に本件各土地通達評価額が本件相続の開始時における本件各土地の時価を上回ることをうかがわせる事情は認められないことから、本件各土地通達評価額が本件相続の開始時における本件各土地の時価を適正に評価したものと認めることができる。
(平29.1.24関裁(諸)平28-24)
※コメント
御依頼頂いた鑑定書には、仮に1手法しか使えないならば、それなりの理由を明確にしなければ、鑑定書としての役割がなくなります。
国税担当側は鑑定書に対するチェックリストを作成していますので、それに合わなければ不合格になりますので要注意です。
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