同一借地権者所有の3棟の建物がある土地(貸宅地)は,それぞれ建物毎に1画地として評価すべきか否かが争われた事例

 

同一借地権者所有の3棟の建物がある土地(貸宅地)は,それぞれ建物毎に1画地として評価すべきか否かが争われた事例

(平成10年6月23日裁決・公開)

本件土地の概要

本件土地は被相続人がJ社に貸し付けていたが,請求人が相続により本件土地を取得した。J社は本件土地を①ガソリンスタンド,②パチンコ店,③ボーリング場に利用している。本件土地は,地続きで分割されることなく,その全部を相続人である請求人ら2名により相続されている。

請求人の主張

請求人は,本件相続に係る本件土地の評価に当たって,J社が所有する建物の敷地ごとに,ガソリンスタンドに係る部分,ならびにパチンコ店およびボウリング場に係る部分との二つに区分し,それぞれを1画地の貸宅地として評価通達の定めにより評価し,申告をした。

1011eyecatchその後,請求人は,本件土地について,ガソリンスタンド,パチンコ店およびボウリング場に係る建物の事業の用に供されている状況ごとに三つに区分し,それぞれを1画地の貸宅地として,本件土地の価額を評価し,修正申告をした。原処分庁は,本件土地の全部がJ社に貸し付けられているものであるから,その全部が1画地の貸宅地であるとして更正処分をした。しかし,本件更正処分における本件土地の評価は評価単位に誤りがあり,不当,違法なものである。

本件土地は,借地法第1条《借地権の定義》に規定されている賃借権により,現実に賃借人であるJ社の所有するガソリンスタンド,パチンコ店およびボウリング場に係る建物の敷地として最有効使用されているものであるから,建物の事業の用に供されている状況ごとに区分し,それぞれを1画地として評価をすべきである。

原処分庁の主張

原処分は,次の理由により適法であるから,審査請求を棄却するとの裁決を求める。評価単位に関して評価通達によれば,宅地の価額は1画地の宅地ごとに評価すべきであり,宅地の上に存する権利の評価についても同様である。そして,同一人が2以上の者から隣接している土地を借りて,これを一体として利用している場合には,利用方法の区分にかかわらず,その借主の借地権の評価に当たっては,その全体を1画地として評価し,また,貸し付けられている宅地の評価においては,同一人に貸し付けられている画地ごとに評価するのが相当である。そうすると,本件土地の評価は,本件土地の全体を1画地の宅地として評価すべきであるから,請求人の主張するような借地人であるJ社の利用状況ごとに区分して評価すべきではない。

また,請求人は,本件土地を使用する上において,賃借人が受ける消防法および借地法の規制があるとして,一利用の宅地を分割して評価すべき旨主張するが,本件土地の全体を1画地の宅地として評価すべきであるから,この点に関する請求人の主張には理由がない。

本件土地は,その全体を1画地の貸宅地として評価すべきであるから,評価通達の定めにより評価すると,その価額は240,591,948円となる。

審判所の判断

宅地の評価については,1画地の宅地ごとに評価する旨定められてる。そして,1画地とは,その宅地の利用の単位となっている宅地をいうものと解されているところ,本件土地は,被相続人とJ社との間で賃貸借契約の締結はされていないものの,J社は,本件相続の開始日現在において,本件土地の全部を継続して使用しており,その賃借料は月額700,000円であることが認められる。そして,本件土地には,J社の所有する給油所および遊技場の2棟が存在し,本件相続の開始日現在において,外形上からも登記簿上からもガソリンスタンド,パチンコ店およびボウリング場の事業の用に供されていることが認められ,本件土地は,地続きであり分割されることなく,その全部が請求人ら2名により相続されていることも認められる。

そうすると,本件土地は,地続きであり,分割されることなく,その全部を請求人ら2名が相続し,その全体がJ社の事業に係る建物の敷地として一体として貸し付けられ,現実にJ社の所有する建物の敷地として,J社の事業の用に供されていることが明らかであることから、貸し付けられている全体が1利用単位,つまり1画地の貸宅地であると判断するのが相当である。

また,評価通達によれば,土地の評価は,課税時期におけるそれぞれの財産の現況に応じ,その財産の価額に及ぼす全ての事情を考慮して評価する旨定められているところ,原処分庁は,本件土地の評価に当たって,J社が本件土地の全部を使用している現況により評価していることが認められる。

そうすると,原処分庁の行った本件土地の評価は,現実に貸し付けられている現況により評価しているものと認められ,請求人の主張する,将来,本件土地が一体となる可能性を前提として評価したものとは認められないと判断するのが相当である。したがってこの点に関する請求人の主張には理由がない。

土地とカラーコーン

請求人は,ガソリンスタンド,パチンコ店およびボウリング場に係る事業には,法律による規制等があることから,これらの事情を考慮して評価すべきである旨主張するので,以下検討する。

J社が営業しているガソリンスタンドおよびパチンコ店に係る事業には次のような規制が認められる。ガソリンスタンドに係る事業は,消防法第10条第4項および同法施行令第17条第1項第13号によると,ガソリンスタンドを営む者は,耐火塀の設置をしなければならない旨,また,パチンコ店に係る事業は,風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律第3条《営業の許可》第1項の規定によると,風俗営業を営もうとする者は許可を受けなければならない旨それぞれ規定されている。

これらの規定は,いずれも事業を営もうとする事業者または営む者に対する規制であると解されるところ,ガソリンスタンドおよびパチンコ店の事業を営む者は,いずれもJ社であることからすれば,これらの法令上の規制の対象となる者は,事業者であるJ社であると認められる。

そして,評価通達においては,請求人の主張する事業に係る法律による規制等がある場合における評価上の影響等について掛酌する旨の定めも認められない。そうすると,請求人が主張する,耐火塀の設置および未成年の入店禁止の規制等があったとしても,これらの規制等は,本件土地の評価をする上での評価単位には何ら影響を及ぼすものではないと判断するのが相当である。以上のとおり,請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が本件土地の評価に当たって,評価通達に基づき本件土地の全体を1画地として評価したことは適法である。

コメント

本件は,貸し付けている宅地の評価に当たって,借地権者が3棟のコメント

建物を建築し,それぞれ別の事業の用に供していたとしても,その土地全体が一人の借地権者に貸し付けられており,かつ分割されることなく相続されていることから,その土地全体を1画地の宅地として評価することが相当であるとした事例である。

土地を評価しようとすると,どうしても建物が気になってしまい,建物を中心に土地を分けてしまいがちであるが,その土地全体が一人の借地人に貸し付けられている場合は要注意である。

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