特別の事情の有無と不動産鑑定

2019年7月9日

借地権付き分譲マンション(10 階建)の敷地(底地)の価額は、評価基本通達に基づく価額ではなく鑑定士の鑑定評価額によるべきだとする裁決事例
(平成9年12月11日裁決・東京)

1.物件の概要

本件宅地には、借地権の敷地権の登記があって、その区分所有者数は 84名になります。
件においては84名の借地権者がいるので、借地権と底地の併合の可能性は著しく低いと当該審判所は判断し、評価基本通達に基づく価額によらず、鑑定評価を入れたと思われます。
当然時価とのかい離が下記の如く大きいのは、本件宅地における特別の事情があると判断され、不動産鑑定を入れたことによる結果だと思います。
正しいと思うことを貫くことの大切さを示す事例だと思います。

※①評価基本通達に基づく価額 724,944,665円借地権・底地
②相続人が依頼した鑑定による鑑定価額 200,000,000円
国税不服審判所の鑑定士の鑑定価額 60,000,000円

2.審判所の判断

裁決要旨

原処分庁は、本件宅地の相続税評価額724,944,665円は、本件売買実例及び本件基準地に基づく本件宅地の更地価額に底地割合20パーセントを乗じて算定した本件宅地の価額を上回っていないから、当該相続税評価額は相法第22条の規定による本件宅地の時価を上回っていない旨主張し、一方、請求人は、本件宅地の価額は、請求人の提出する鑑定評価額200,000,000円とすべきである旨主張する。

しかしながら、(1)本件売買実例は、同族関係者間の取引であり、同実例から比準して本件宅地の価額を算定す ることには疑問があること及び(2)本件宅地は借地権付の分譲マンションの敷地であることから多数の借地権者が存在しており、かつ、当該借地権は建物の区分所有権とともに独立した市場を有していることから、本件宅地については、本件宅地と当該借地権とが併合し、完全な土地所有権となる可能性は著しく低いものと認められること等の特別の事情があることから、本件宅地については、借地権価額控除方式によって評価した当該相続税評価額によることは相当でないと認められる。

また、請求人の主張する鑑定評価額は、割合方式による比準価格と1パーセントの還元利回りを採用した収益還元方式による収益価格に基づき、後者の価格を重視し、前者の価格を考慮して決定されているところ、本件宅地の場合、本件宅地の存する近隣地域は既に商業地域として成熟していること等からすれば、特に低い還元利回りを採用すべき事由は認められないので、同鑑定評価額が1パーセントの還元利回りを採用して収益価格を算出したことを相当ということはできない。

ところで、本件宅地については、当審判所においても第三者間における底地の取引事例を確認できず、当該取引事例から本件宅地の価額の検証ができないため、当審判所が鑑定評価を依頼したところ、本件宅地の価額は、割合方式による価格と収益還元方式による価格の双方を調整の上評価した鑑定評価額60,000,000円と認められるので、原処分はその全部を取り消すべきである。(平 9.12.11 東裁(諸)平 9-86)

関連ページ:相続税法上の時価鑑定(https://erea-office.com/appraisal/fair_valuation/)