財産評価基本通達による評価額ではなく、時価鑑定が採用された事例

 

財産評価基本通達により求めた価額が時価を上回る場合は、特別な事情があると認められるので、他の合理的な評価方法即ち時価鑑定を採用された事例

(関裁(諸)平24第51号 平成25年5月28日公開)

 

1. 事例の概

(1)本件土地の概要

本件土地は、間口約12m 地積75㎡を有する不整形地、間口約12mが幅員約8.2mの市道に接面し、約54mが幅員約1.8mの市道に約5m高く接面する。なお約1.8mの市道は建築基準法上の道路ではない。
第一種低層住居専用地域(建ペイ率50%、容積率100%)。
本件土地の周辺は一囲の戸建住宅や低層アパートが多く見られるので、一般住宅地が進んでいる地域である。

住宅地

(2)事案の概要

本件は、請求人が相続により取得した土地の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額であるとして相続税の申告をしたところ、原処分庁が財産評価基本通達に基づく評価額によることが相当であるとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
本件の評価額を整理すると下記のようになります。

相続人側… 不動産鑑定士による鑑定評価額    …6,000万円
原処分庁… 広大地適用した評価額       …1億5,045万2,114円
審判所…  鑑定評価額                       … 6,930万円

2. 裁決の要旨

イ 請求人の主張

本件土地は、評価通達の定めにより難い特別な事情に当たるので、本件土地の価額の算定は鑑定評価の方法によるべきであり、本件土地の価額の算定は、鑑定評価の方法によるべきであり、本件土地の価額は請求人鑑定評価額(65,400,000円)となる。

このことは本件通達評価額(1億5,045万2,114円)が請求人鑑定評価額(65,400,000円)に比して過大であることからして明らかである。

(イ)本件土地は、崖地かつ袋地であり、擁壁及び造成工事には通常の広大地以上の費用を要する。

(ロ)本件土地のうち、その全体を開発道路とする必要があるから、本件土地は、同規模の他の広大地と比して潰れ地割合が高い。

(ハ)本件土地は袋地状の形状のため、宅地分譲開発をするとした場合の区画割りが困難であり、同規模の他の広大地と比して販売戸数が少ない。

ロ 原処分庁の主張

請求人が主張する事情は、次のとおり、本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情には当たらず、本件土地の本件相続開始時における価額は本件通達評価額となる。

(イ)本件土地を開発する際に多額の擁壁・造成費用が必要であるとしても、これらの費用は、広大地通達に定める広大地補正率が評価通達15から20-5までに定める各種補正率に代えて乗じられるものであることからすると、広大地補正率により考慮されていると認められる。

(ロ)広大地通達に定める広大地補正率は、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる宅地を評価するに当たり、実際に開発許可が受けられるか否かにかかわらず適用されるものであるから、仮に、請求人が主張するような、本件審査基準等による種々の開発制限により、本件土地の本件相続開始時の現況では開発許可が受けられないとしても、これらの制限があることをもって、評価通達の定めより難い特別な事情があるとは認められない。

ハ 審判所の判断

(イ)請求人鑑定評価額について

請求人比準価格及び請求人開発法価格は、その算定過程において、いずれも合理性が認められないから、これらの価格を基に算定された請求人鑑定評価額は、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)とは認められない。

(ロ)当審判所が認定した本件土地の時価について

請求人鑑定評価額は、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)とは認められないが、他方、本件土地の開発に際しては、袋路状道路の敷設は認められないなど特殊な制約が本件相続開始時にあったことから、当審判所において、本件土地の評価に際し、評価通達によらないことが正当と認められる特別な事情があるか否かを検討するため、不動産鑑定士に対し、本件土地の鑑定評価を依頼した(以下、「審判所鑑定評価」という。)。審判所鑑定評価の概要は、別表5記載のとおりであり、本件土地の評価額を69,300,000円(以下「審判所鑑定評価額」という。)と算定している。

審判所比準価格及び審判所開発法価格は、その算定過程に合理性を疑わせる点は認められず、他の点についても同様である。そして、審判所鑑定評価額(69,300,000円)は、審判所比準価格及び審判所開発法価格を再吟味した上で、いずれの価格も同程度の説得力があり、その差も僅少のため、両価格の中庸値を採用していることから、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)として妥当なものと認められる。

(ハ)本件土地の本件相続開始時における価額(時価)はいくらか(本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か)について上記(1)のとおり、評価通達に定められた評価方法により算定される価額が時価を上回る場合には、評価通達の定めにより難い特別な事情がある場合に該当するといえ、その場合には、評価通達の定めによらず、他の合理的な評価方法により評価することが許されると解されるところ、本件土地につき、広大地通達を適用して算定される価額(150,452,114円)は、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)である審判所鑑定評価額(69,300,000円)を上回ることから、本件土地の評価額を評価するに当たっては、評価通達の定めにより難い特別な事情があると認められ、本件土地の評価額は審判所鑑定評価額とするのが相当である

3. コメント

相続税法上の土地の評価は、評価通達に定められた評価方法により算定された価額をもって時価とすることになっていますが、本件土地(3059.75㎡)のように1000㎡超の土地は時価鑑定をすることにより時価を求めれば、評価通達に定められた評価手法により求めた価額より低く求められるのが一般的です。

本件はその1つの例題になったと考えます。