複数の転借権者が存し、更地化には権利関係を整理しなければならない事例
本件土地には所有者、借地権者および複数の住宅所有者である転借権者が存し、更地化するには複雑な権利関係を整理しなければならない「特別の事情」があるとした事例
(沖縄(諸)平成17第18号・平成18年6月15日)
本件土地の概要
貸宅地・私道の用に供されている本件土地 (地積 1,035.00㎡) は、宅地開発業者が複数の土地所有者から一括して賃借し、各土地の筆界にかかわらず道路を築造し区画割りを行った後に、転借地権付戸建住宅として分譲された。
その結果、本件土地は、その土地所有者、宅地開発業者である借地権者および複数の住宅所有者である転借権者が存在するという複雑な権利関係を有することになり、全ての関係者の同意を得て複雑な権利関係を整理しなければ、更地として売買できないという「特別の事情」が存在することになった。
請求人の主張
原処分庁の鑑定評価額は、実際の売買事例額を大きく上回っており、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額と大きく乖離しているから違法である。
財産評価基本通達(以下、評価通達という)により難い 「特別の事情」または 評価通達に基づいて評価した価額が時価を超えていると認められる場合には、納税者の実質的負担の公平を欠くことになるため、 評価通達に定める以外の方法によって評価することも許される。
本件土地は、評価通達により難い 「特別の事情」 を有しているから、 土地の時 価に対して底地の時価が占める割合 (以下、底地割合という)を基に評価すべきである。
原処分庁の主張
原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。 本件土地は評価通達により難い「特別の事情」が存することも想定されたことから、原処分庁においても、時価の検証を行うために鑑定評価を依頼したところである。
請求人は、本件土地に対する原処分庁の鑑定評価額は売買実例価額を大幅に上回っている旨主張しているが、仮にそのような売買事例があったとしても、個々の売買実例価額には、売主、買主それぞれの売買に当たっての事情等が含まれており、特に本件土地のように個別性の強い土地の取引については、土地所有者の売却時の状況などによって売買価額にも相当の開差が生じる可能性は否定できない。 このような不確定要素を内在させた個々の売買実例価額について適正な事情補正等を行わずに算出した底地割合のみをもって得られた評価額を客観的・一般的概念である時価とすることは相当ではない。
請求人の評価方法については、取引事例の価額から評価対象地の価格を比準する取引事例比較法を用いることは、その実証性に照らして合理的であると認められているものの、この取引事例比較法による対象不動産の価格の算出を合理的ならしめるには、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、さらに適切な取引事例の価額に必要に応じて事情補正および時点修正を行い、かつ、地 域要因の比較および個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量することが必要であり、この場合の取引事例は原則として近隣地域または同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るものから選択するものと解されている。
これを請求人評価額についてみると、 個別補正等を行うことなく取引事例のみに基づいて本件平均底地割合を求め、 自用地価額に平均底地割合を乗じて底地の 評価額を求めていること、さらに、取引事例のうちに近隣地域内または同一需給 圏内の類似地域に存しない取引事例1件が含まれ、取引事例は2件と少ないこと からすれば、請求人評価額は不動産鑑定評価基準が予定している取引事例法に基づいた評価手法とは言い難い。
本件鑑定における底地の収益価格の算出方法は合理的に算出されていると認められる。 しかしながら、 控除価格を採用している点は,原処分庁が本件土地について借地権価額控除方式により評価し難いとしていることの整合性からみて、やや説得力を欠くといわざるを得ない。
本件土地の評価額について、 請求人は自用地価額に平均底地割合を乗じた価格が時価相当額である旨主張し、 原処分庁は本件鑑定に基づく評価額が時価相当額 である旨主張するが、 請求人の主張には上記のとおり理由がなく、 一方、原処分庁の主張にも、 上記のとおりその評価額は適正とはいい難いといえる。 そこで、本件鑑定の比準価格相当額を用いて評価額を決定することにより適正な時価が算出されると認められる。
したがって、請求人に対する本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
コメント
本件では、本件土地を含む土地を宅地開発し、貸宅地部分の土地は宅地開発業者が複数の土地所有者から土地を一括借りして各土地の境界にかかわらず道路をつくり、区画割りを行い、 転借権付戸建住宅を分譲したため、 借地権者および複数の住宅所有者である転借権者が存在し、複雑な権利関係が発生した。 そのため、更地として売買しようとすれば、 複雑な権利関係を整理しなければならないという 「特別の事情」が発生していると、審判所は判断した。
「特別の事情」があると判断出来れば、 評価通達によらず別の評価方法によることが許される。 すなわち、 不動産鑑定評価により土地の評価が可能である。
不動産鑑定評価基準では、 底地の価格は比準価格と収益価格とを関連付けて決定する旨定められているが、 請求人の評価方法では取引事例のうち近隣地域または同一需給圏内の類似地域に存しない取引事例が1件含まれ、取引事例は2件と少ないことからすれば、 請求人の評価額は不動産鑑定評価基準に基づいた評価方法とはいい難いと審判所は判断している。
また、原処分庁は本件土地について借地権価額控除方式により評価し難い というが説得力に欠けると、 審判所は述べた。
したがって、 本件土地の評価額は、本件鑑定の比準価格相当額を用いて決定することが相当であると、 審判所は判断し、 請求人に対する本件更正処分の一部を取り消すとした。