路地状敷地と広大地判定

2019年6月12日

本件通達によらないことが正当と是認されるような特別の事情は存せず、本件土地の最有効使用は、戸建住宅分譲用地であり、路地状敷地を組み合わせる方法は非現実的とは言えないので、広大地には該当しない、とした事例
(東京高裁平成17年(行コ)第320号・相続税更正処分取消等請求控訴事件・平成18年3月28日控訴棄却)

事案の概要等広大地に該当しないとした事例

本件は、控訴人らは、相続財産である土地の評価について、被控訴人が依拠する財産評価基本通達によるべきではない特別の事情があり、不動産鑑定士による鑑定額をもって財産の価額であると主張し、上記通達によるとしても広大地の補正をすべきで、被控訴人のした評価は過大で違法であるとして各処分の取り消しを求めた事案である。

原審は、控訴人らの主張をいずれも認めず、被控訴人がした価額の評価が相当であり上記各処分に違法はないと判断し、請求をいずれも棄却したことから、控訴人らが控訴した。

控訴人らの主張

①控訴人らが、本件土地の評価につき本件通達の方法によらないことが正当であると是認される特別な事情と主張しているのは、(イ)本件土地が不整形な画地であり、(ロ)用途地域が中央部で二分され、(ハ)住宅用地としては広大であることである。

これに対し、原判決は、本件通達は上記事情に対しすべて一般的に手当がしてあるから、本件通達によるべきであり、控訴人らが依拠する辛鑑定書の評価を採用する余地がないとした。

②しかし、本件通達において一般的に手当がしてあるからといって、本件土地につきこれによるべきでない特別の事情がないとはいえないし、また、仮にその手当されたすべてが本件土地の評価に適用されるなら、本件通達に依拠するべきであるといえても、本件では(ハ)についての手当(通達24-4)は用いられていないのであるから、上記のようにいうことはできない。
特別な事情の有無は具体的な事案につき個々に判断されるべきであり、原判決は本件土地の具体的な事情を無視したもので不当である。

③また、原判決は、辛鑑定書による評価が被控訴人がした本件通達による評価より大幅に下回ることも、特別な事情にあたらないとするが、不当である。
本件通達は「時価」を評価するにあたり、画一的な方式を提供するものであり、その適用結果が時価と大きな乖離があってはならないはずである。
被控訴人がした評価は、時価である辛鑑定書の価格を27%も上回るものであり、大きく乖離するものであり、本件通達の方法によっては正しく評価ができなかったことを示している。
もっとも、広大地の通達(通達24-4)を適用すれば、評価は129,329,694円となり、甲鑑定書とほぼ一致する。
すなわち、このこと自体が広大地であるとして本件通達によることなく鑑定評価によって申告することを正当とした特別の事情そのものを示しているのである。

④仮に、本件通達によるべきであるとすれば、被控訴人は広大地の補正をするべきであった。

広大地といえるかを検討すれば、本件土地は、大規模工業用地には該当せず、マンション適地ではなく、三大都市圏の市街化区域にある500㎡以上の土地であり、公共公益的用地負担の有無、すなわち道路開設の必要性の判断にかかることになる。

そうすると、本件土地は戸建分譲住宅用地が最有効使用であるところ、道路開設の必要がないとする被控訴人主張の分割図(乙鑑定書中のもの。被告分割図)は、あまりにも非現実的である。

すなわち、画地①、②は、間口7m、奥行20mという、間口の3倍の奥行きがある土地で、画地③、④は幅がそれぞれ16.5m、19.5mで、奥行がいずれも6mしかない土地である。

このような画地は建てる建物が制約され、しかも、事実上道路としてしか使えない進入路の幅が8mあり、そのしわ寄せで間口が狭くなるなどしているのである。
控訴人の利用計画図と対比し、被告分割図は非現実的であることが明らかである。

原判決が、被告分割図のとおり利用することが「最」有効利用と認め、本件土地に公共公益的用地負担がないものと認定したのは明らかな誤りである。

原判決が、路地状敷地が重なる場合であっても、各路地状敷地のうち路地状部分には塀や壁を建てないことにより有効利用が可能であるとし、被告分割図には相応の現実性もあるといえると判示し、最有効利用とも思えないような理由を付加しているのであって、現実性に疑いを持っていることを認めているのである。

被告分割図は、道路を開設しないとしているが、路地状敷地の集積は道路そのものであり、道路ではなく、路地状敷地にすることの合理性はない。

したがって、本件土地につき本件通達の広大地補正をすれば、評価額が129,329,694円となり、本件通達により評価すべきであるとしても、上記価格により相続税を算定するべきである。

被控訴人の反論

①控訴人らは、甲鑑定書の評価額が本件通達による評価を下回ることをもって、特別事情に当たる旨の主張をする。
しかし、甲鑑定書は、取引事例比較法において同一需給圏内と認められない不適切な事例を取引事例として選択し、また、取引事例の取引価格及び基準地の規準価格に乗ずる個別格差による減額割合が過大にすぎ、いずれの算定価格も過少に評価されている等の不合理な点があり、これによっては本件土地の時価の評価ができないものであるから、この点の主張は理由がない。

②本件通達によらない評価方法が正当と是認される「特別の事情」があるというためには、本件通達によることが明らかに本件土地の客観的交換価値とは乖離した結果を導くことになり、そのため実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨および本件通達の趣旨に反することになるなどの事情が必要であり、控訴人らが主張する事項(広大地につき鑑定評価により申告する手法が一般的であったかのように主張する点も含む。)がこれに該当しないことは明らかである。

③控訴人らは、本件通達によるとしても、広大地の補正を行うべきであると主張する。

しかし、被控訴人が主張するように、本件土地と同様の500㎡から1000㎡の規模の土地が、被告分割図のように道路を新設せず、路地状敷地を組み合わせる開発方法により5ないし8区画の戸建て住宅分譲用地として販売されている事例が多数存在することからも、被告分割図が非現実的なものではないことが明らかである。

路地状部分は、個人が所有する敷地であるから、道路としないことにより、その部分の面積が容積率及び建ぺい率の算定において敷地面積に含まれることになり、より広い建物を建築でき、路地状部分を駐車スペースとして利用することも可能になり、一辺が道路に接する長方形の区画や、路地状敷地で道路に接する区画を設けることで、購買者の資力に応じた物件を提供できるのであり、路地状敷地を組み合わせた開発を行うことには十分な経済的合理性があるといえる。したがって、本件土地には公共公益的用地負担がなく、広大地補正をすべきではない。

裁判所の判断

① 当裁判所は、本件土地について、本件通達に基づいて価額を評価すべきであり、その際に「広大地」に関する定めを適用することができないから、被控訴人がした価額の評価は相当で本件処分に違法はなく、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。
その理由は次のとおり説明を付加するほか、原判決事実及び理由「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

② 控訴人らは、本件土地は不整形な画地で、用途地域が中央部で二分され、住宅用地としては広大であり、本件通達によらない評価方法が正当と是認される「特別の事情」がある旨を主張する。

本件土地の価額を評価するにおいて、本件通達の定めによることが、明らかに本件土地の客観的交換価値から乖離した結果を導き、そのため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨および本件通達の趣旨に反することとなるなど、本件通達に定める評価方法によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合には、本件通達による評価によらず他の合理的な評価方式によることが許されると解すべきである。

しかし、本件通達は、控訴人らが主張する上記のような事情があるときは、これに対応して評価すべきことを定めており(評価基準通達20、20-5、24-4)、控訴人らが主張する上記事情が本件通達によらないことを正当として是認すべき特別な事情に当たらないことは明らかである。また、控訴人らは、甲鑑定書が本件土地の時価を130,000,000万円と算定しており、これを前提に本件通達による被控訴人の評価額が時価から大きく乖離し、上記特別の事情があることを示している旨を主張する。

しかし、甲鑑定書は、乙鑑定書(本件土地の時価を172,000,000円とする)と対比すると、その算定する価格が本件土地の時価を示し、本件通達による評価が時価と大きく乖離するものであるとまで認めることはできない。

すなわち、甲鑑定書は、本件土地の最有効使用は標準的使用と同じ共同住宅等の敷地であるとし、本件土地につき、比準価格をやや重視し、開発法による価格を比較考量し、収益価格を参考にして130,000,000円と評価したものである。

したがって、甲鑑定書が鑑定評価の方法において誤っているとまではいえないが、本件土地が戸建住宅分譲用地として開発するのが最有効使用であるのに、最有効使用を共同住宅等の敷地とし、これを前提に比準価格や開発法、収益還元法を考慮している点で本件土地価格が過少に評価されているのではないかとの疑問が残り、適切であるとはいいがたく、甲鑑定書の評価を斟酌しても、本件通達に定める評価が実質的な租税負担の公平を著しく害するものであるとまで認めることができず、これによっても本件通達の公平を著しく害するものであるとまで認めることができず、これによっても本件通達の方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情があることを理由付けるに足りないというべきである。

その他、控訴人らが主張する点を斟酌しても、本件土地につき本件通達によらない評価方法が正当と是認される特別の事情を認めることができない。

しかし、証拠によれば、例えば本件土地を被告分割図に従って戸建住宅分譲用地として開発する場合には、区画形質の変更(都市計画法所定の開発行為)に該当せず、国土交通省による開発許可制度の運用指針、都市計画法等の法令及び○○市の宅地開発指導要綱等に基づく道路等の公共公益的施設用地の負担は不要と認められ、本件土地の評価において、本件通達の「広大地」に関する部分の適用は不要である。

控訴人らは、被告分割図は非現実的であり、この分割方法は経済的合理性を欠く旨を主張する。しかし、道路を新設せず、被告分割図に基づいて本件土地を分割すれば、建築基準法第52条所定の容積率、同法53条所定の建ぺい率の算定に当たって、同図の分割地番号③ないし⑤の区画(本件路地状敷地)のうち路地状部分の面積も敷地面積に含まれ、より広い延べ面積および建築面積の建築物を建てることが可能となるうえ、路地状部分を駐車場として利用することができること、被告分割図のうち分割地番号①及び②の区画のように長方形で一辺が道路に面する区画と、同③ないし⑤のように道路から離れ奥に位置する区画と言った価格や用途の異なる区画を提供でき、購買者の資力に応じた物件提供ができると考えることもできることからしても、被告分割図には経済的合理性があるといえる。

また、○○市の近隣地域である○○市、○○市、○○市、○○市に所在する物件において、被告分割図と同様に、道路を新設せず、路地状敷地を組み合わせる方法により、戸建住宅分譲用地として販売されている事例があることからしても、被告分割図が現実的ではないなどということはできない。

したがって、被控訴人が本件土地の評価に当たって本件通達を用い、同通達のうち広大地に関する部分を適用しなかったことは相当で、被控訴人の評価方法による本件土地の評価額は適正というべきであるから、控訴人らの請求はいずれも理由がない。

③ よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

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コメント

控訴人ら(原告、請求人ら)は、本件土地の評価につき本件通達の方法によらないことが正当であると是認される特別な事情があるとして、甲鑑定書による価格130,000,000円が本件土地の時価であると主張します。

さらに、控訴人らは「広大地の通達(通達24-4)を適用すれば、評価額は129,329,694円となり、甲鑑定書とほぼ一致する」と主張しました。

しかし、甲鑑定書は、本件土地の最有効使用は標準的使用と同じ共同住宅等の敷地として価格を130,000,000円と評価しているので、広大地の考え方とは矛盾します。

広大地適用で本件価格の土地を検証しようとすれば、甲鑑定書は、本件土地が戸建住宅分譲用地として開発するのが最有効使用であるはずなのに、最有効使用を共同住宅等の敷地として、これを前提に価格を求めています。

これに対して、裁判所は「過少に評価されているのではないかとの疑問が残り、適切であるとはいいがたく、これによって本件通達の方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情があるとはいえない」と言っています。

被控訴人(原処分庁)は本件土地の鑑定書を不動産鑑定士に依頼し、本件土地の時価は172,000,000円なので、評価基本通達に基づく時価(165,254,757円)は本件土地の時価172,000,000円よりも小さく、評価基本通達に定める評価方法によらないことが正当として是認されるような特別な事情はないと主張していたことを裁判所は認め、控訴人の請求を棄却しました。

被控訴人が作成した分割図が余りに非現実的であること、たとえば画地①、②は間口が7m奥行20m画地③、④、⑤は間口が2m、3m、3m奥行が20m超で、③、④は奥行は6mしかない土地が経済的合理性があるとは言いにくいと思われますが、控訴人の請求が認められなかったのは残念というか、他にやり方があったかもしれないと思う次第です。

この争いの結果についてはとても残念に思います。

 

関連ページ:地積規模の大きな宅地の評価(https://erea-office.com/appraisal/new_koudaichi/